遺影写真はお葬式をする上では必須アイテムです。
祭壇の中央には遺影写真が飾られますし、お葬式が終わった後も四十九日法要な年忌法要では遺影写真が必須です。
そう考えると家族としては「やはりきちんとした服装の写真にしないといけないのではないか?」「みんなと同じようにお葬式用に加工した方がいいのではないか?」と思うはずです。
でも実際には加工をしない写真の方が間違いなくいい写真です。
その理由をプロの立場で解説します。
遺影写真は加工しなくても良い!むしろプロなら加工なしを勧める!
遺影写真を加工しないほうが良いと思う理由をプロの立場から3つ挙げてみます。
・服の着せ替え加工をすれば首から下は別人の写真。
遺影写真の加工の代表と言えば服の着せ替え加工です。
これは昔からある加工技術であって、この加工がされた遺影写真は比較的よく見かけます。
もちろんよれよれのTシャツ姿から和服やスーツ姿に変えられるのであれば、そちらの方が見栄えは良いです。
でもこのような加工で使われる服の部分は別人の写真です。
着物姿に着せ替えるのであれば、着物を着たモデルさんの首から下の部分を使います。
そして提供された人の顔の部分を首から上に張り付けて加工します。
これが服の着せ替え加工です。
つまり顔は本人のものですが、着せ替えた部分は他人となります。
しかも体型も全然違います。
基本的に日本人の標準体型のモデルがこうした着せ替え加工のモデルになるのですが、体型は人によっても違います。
さらに顔の写真の方が拡大することによってぼやけてしまった場合、首から下だけ輪郭がはっきりして肝心な顔の部分の輪郭がぼんやりとしてしまうこともあります。
もちろんこれも修正によってある程度は加工できるのですが、やっぱり不自然さはあります。
ただこれも考え方次第です。
「たくさんが集まるお葬式だからこそきちんとした服装の写真で送ってあげたい」という人もいます。
でも「服の着せ替え加工をすると首から下は他人になってしまいますよ」とアドバイスをすると、考え直して修正なしとする人も多いです。
ですから服の着せ替え加工には賛否両論があるということをまず理解してください。
そのうえで「みんながやっているからやはりした方がいいのでは?」というのであれば、もう一度考え直してみてください。
・背景の加工もできるだけしない方が自然体で良い
これは遺影写真を専門にしているプロのカメラマンからの意見です。
遺影写真を作るときにはバックの修正をすることがよくあります。
実際に修正が必要なこともあります。例えば「背後に別の人が写っている」という場合です。
結婚式などの集合写真を遺影写真として使う場合です。
この場合は背後や両サイドの人物が写り込んでしまっているので、さすがに修正しなければいけません。
この場合は「加工しない」という選択肢はないといえます。
でも旅行先での写真や自宅前での写真などの場合は、背後に人物が写っていないことが多いですよね?
このような写真であれば、プロのカメラマン曰く「そのままにした方が自然な感じになって絶対に良い」と言います。
確かに修正箇所が増えるほど、自然な状態ではなくなります。
「無難」を目指すのであれば修正をした方がよいのですが、遺影写真はお葬式以外でも使います。
四十九日法要や初盆供養でも使いますし、年忌法要でも使います。
また時間がたてば仏間に飾ることになります。
しかもお葬式から時間がたつほどこうした供養行事の規模は小さくなり家族だけで行うようになります。
そう考えると出来るだけ修正をしない自然のままの写真の方が良いというプロの意見もなんとなくわかってもらえるのではないでしょうか?
・実際にはお葬式が終わった後に遺影写真を別の写真に変える人が増えている
お葬式のために使った遺影写真のその後については、人によっても考え方が違います。
それはお葬式に対する考え方に変化があるのと同じように、供養に関する考え方も時代とともに変わっているからです。
でもそれとは別に遺影写真を別のものに取り換えている家族は意外と多いのです。
グリーフケアの一環として、私は現場を担当した家族の四十九日法要までは何度か自宅に伺います。
もちろん葬儀の打ち合わせから担当しますので遺影写真選びにも立ち会います。
打合せの際に写真の修正の希望があれば希望個所の修正をし、出来上がった遺影写真をもって家族に出来栄えを確認してもらいます。
この時に「きれいな写真になっている!」とか「いつものお父さんの顔だ」と言って喜んでくれる場合は、お葬式が終わった後に遺影写真を取り換えるということはまずありません。
ところが見せた時にあまり反応がない場合は、お葬式後に別の写真に取り換えていたり遺影写真には使わなかった別の写真を飾っていたりします。
多分遺影写真を見て思っていたものと全く違った印象に変わってしまったからなのでしょう。
私はそれでも良いと思います。
お葬式はいろいろな人が来ますから、そのことを考えて写真の加工を依頼した家族の気持ちもよく分かります。
でもお葬式が終わり少しずつ日常生活に戻っていく中で、毎日手を合わせる遺影写真に違和感を覚えていくのでしょう。
だから家族の記憶にある自然体の写真に取り換えているのだと思うのです。
実際に「取り替えても問題はありませんか?」と相談してきた家族もいます。
その家族はお葬式の当日は慌ただしくてどうしても写真を探す時間がなく、気に入ったものがあったけれどそれを見つけることが出来なかったそうです。
でも毎日手を合わせてもどうしても記憶の中の本人とのギャップがあったのだといいます。
もちろん遺影写真を取り換えても何も問題はありません。
その話をした翌週にもう一度自宅を訪ねると、普段着姿で笑顔がきれいな写真に遺影写真が変わっていました。
「葬儀屋さんがわざわざ準備してくれたのにごめんなさいね」と言いつつも、写真を取り換えた後はなんとなく亡くなった本人がそばにいて見守ってくれているような気がして落ち着くようになったとも言ってくれました。
あくまでもこれは参考までに紹介した体験談です。
でも実際にはこのようにしてあとから悩む人も少なくありません。
ですから「周りの人に何か言われたら困る」と思って修正をするのであれば、少し考え直してみてください。
確かに遺影写真はお葬式では大事ですが、お通夜式が始まるまでに準備が出来れば基本的に問題はないのです。
急がされるのは葬儀社の都合です。
でも家族にとって遺影写真は大事なものなのですから、納得できるまで考えてからでも大丈夫なのですよ。
遺影写真は本人らしい写真であればどんな写真でも大丈夫
遺影写真は「こうしなければいけない」はありません。
むしろ「本人らしい写真であれば何でもよい」と言えます。
さすがに後ろ向きの写真は、よほど思い入れがあるのでなければあまりおすすめしません。
でもポーズをとっていても問題ありませんし、乾杯している写真でも構いません。
(実際に過去にビールジョッキ片手に満面の笑みを浮かべた写真を遺影写真にした人がいます)
「顔が隠れるから避けた方がよい」といわれるサングラスですが、普段からサングラス姿しか見ていないというのであれば逆にサングラスがないことの方が違和感になります。
ですからこれも問題ありません。
(もちろんこれも実際にそういう遺影写真を作った経験があります)
服だってどんなものでも構いません。「いつもグレーのトレパン姿だったから」と言ってお気に入りのトレーナーを着た写真を無修正で遺影写真にしたこともあります。
家族は今でその写真をとても気に入っています。
ですからどんな服、どんなポーズ、どんな写真であってもその人らしさが伝わるのであれば修正をする必要はありません。
「修正するのが基本ですよ」ともしも葬儀社が言うのであれば、「このままの写真でお葬式をしたいので!」と強く伝えてください。
どうしても修正が必要な場合はもちろんありますが、「修正をするのが基本」ということはありません。
修正なしの遺影写真を使いたいなら記念日ごとに写真を撮る習慣を!
今のあなたが「もしものために写真を探しておこう」と思うのであれば、探すよりも今の写真を残しておく習慣をつけておいた方が良いです。
写真館で写真を撮るのも良いですが、写真を撮る習慣をつけるというだけでも良いです。
歳を重ねていくと写真を撮られるよりも撮る方が増えます。
子供の結婚、孫の誕生に成長は年老いていく人にとっては何よりもうれしいものです。
それとは逆に自らの体にはしわが増え白髪も増えていきます。
こうした現実を見るよりも、若く将来のある子や孫の姿を写真に収めて見守っている方が元気になれます。
でもこのままこの状態を続けていくと、いざ写真が必要になったときに古くて若い頃の写真しか手元にありません。
結局何とか遺影写真に使えそうな写真を見つけ出し、修正をして遺影写真を作ることになります。
だからもしも将来のことを考えての行動であれば、まずは写真を撮る習慣から始めてください。
そのこと自体に特に意味はありません。
でもいざとなったときに必ず役に立ちます。
まとめ
遺影写真は「引き伸ばし加工」というものが必要になります。
また背景に別の人物が写っている場合は背景の加工修正が必要になります。
でもこれ以外の理由で加工をするかどうかは、家族の意向次第です。
「しなければいけない」というものではありませんし、「するのが基本」も間違いです。
なにしろお葬式が終わった後も遺影写真は必要になります。
そのたびに後悔をすることになるくらいなら、「普通」とか「一般的」という言葉に惑わされずあなたの気持ちが安らぐ方法を選んでください。
きっとそれが正しい遺影写真の作り方だと思いますよ。