仏教式のお葬式をすると、俗名(この世の名前)とは別に戒名と呼ばれる名前をいただきます。
戒名のつけかたについては宗派によって違いがあります。
ただこの世の名前の付け方とは違うので、位牌に書かれた戒名を見てもその意味がよくわからないという人の方が多いです。
そこで今回は「戒名」について分かりやすく説明していきます。
戒名には様々な種類がある
戒名とは、本来は「仏門に入るために授けられる名前」のことを言います。
仏門に入るには、「生きているうちに入る」と「死後に入る」の2つがあります。
生きているうちに仏門に入る方法にも2つの方法があります。
出家をせずに仏門に入った人のことを「在家信者」といい、出家をして仏門に入った人のことを「出家者」といいます。
どうしてお葬式で戒名が必要になるの?
お葬式で戒名が必要になるのは「仏教式でお葬式をするから」です。
仏教では亡くなった後、四十九日間の修行を経て仏の世界へ行くといわれています。
でも仏の世界に行くにはただ旅をすればよいというわけではありません。
仏の世界にいくには、まずは仏門に入って仏さまのお弟子さんにならなければいけません。
これを「仏弟子」といいます。
仏弟子になるためには「授戒」「灌頂」「得度」など様々な儀式を済ませなければいけません。
まず初めの儀式となるのが「授戒(じゅかい)」です。
これは「仏弟子として生きていくために、守るべき戒を受けること」を言います。
ものすごくわかりやすく言うと「出家のための道徳の時間」という感じでしょうか?
これを受けることによって、仏弟子としての最低限のマナーを身に着けたことになります。
次が「灌頂(かんじょう)」です。
灌頂は「悟りの境地にたどり着いたことを証明する儀式」のことです。
そもそも「成仏=仏になる」であり、仏になるということは悟りを開いたということになります。
これも仏弟子になるには大切な儀式です。
ちなみに出家者でも位が上がるときには灌頂を行います。
最後が「得度(とくど)」です。
これは僧侶として仏門に入るための最後の儀式のことです。
この儀式で髪をそり、僧侶の必需品である袈裟や衣を受け取ります。
髪を剃ってくれるのはお師匠様とされています。
こうして仏弟子としての準備がすべて終わると、いよいよ僧侶としての名前をもらいます。
俗世を離れ仏門に入るわけですから、それまでの名前(俗名)は捨てなければいけません。
でも名前がないままというわけにはいきませんので「戒名」を授けてもらいます。
つまり仏教式のお葬式では「仏弟子になるから戒名が必要」にということなのです。
お葬式の最中に本当に髪を剃られているの?
得度を受けるということは髪を剃るということと説明しましたが、実際にはお坊さんにカミソリで髪を剃られるということはありません。
得度式は生きている間でもうけられますが、この場合も一般的には得度を受ける前日までに髪を丸めておき、得度式ではカミソリを頭に当てるだけです。
つまり儀礼の一部として行います。
お葬式の場合も同じです。カミソリの代わりとなる道具を頭にあて、剃髪をしたことにします。
ですから仏教式でお葬式をしたからといって、実際に髪を剃られるということはありません。
位号の種類
戒名の下には、仏弟子としての位を表す「位号」がつけられます。
これは性別だけでなく生前の社会的な地位、年齢などとも関係があります。
在家信者の場合の位号
男性の場合は「優婆塞(うばそく)」、女性の場合は「優婆夷(うばい)」といいます。
どちらも正式に仏弟子になったことを表しています。
在家信者の中でも篤信者の場合は「信士」「信女」または「清信士」「清信女」が与えられることもあります。
お葬式で授けられる信士・信女とは?
仏教式のお葬式でよくみられる信士・信女も、在家信者の戒名で見られる「信士」「信女」と同じです。
これは「仏弟子として守らなければならない戒をきちんと守り、身も心も清らかな仏の弟子」という意味があります。
居士(こじ)とは
居士は男性につけられるものです。
居士には2つの意味がありますが、わかりやすく言えば「広く資産を積み、財産を居する士=居士」となります。
ちなみに一つ上の位になると「大居士」となります。
大姉(だいし)とは
大姉は女性につけられるものです。
そもそもは出家した女性信者に授けられる比丘尼(びくに)を称したものでしたが、現在は居士と同じ位にある女性に対してつけられています。
ちなみに一つ上の位になると「清大姉」となります。
禅定門(ぜんじょうもん)とは
禅定門は男性につけられるものです。
禅定門は「禅定門士」の略で、仏門に入って剃髪染衣した人のことを言います。
禅定門はさらに略され「禅門」ともいわれます。
禅定尼(ぜんじょうに)とは
禅定尼は禅定門と同じ位にある女性に対してつけられています。
そもそもは「禅定門尼」とされるのですがそれが略されて「禅定尼」とされました。
さらに略されて「禅尼」ともいわれます。
子供の位号
子供の場合は、年齢によって位を表す位号が変わります。
おおよそ7~15歳くらいまでは「童子」「童女」を使います。
これは剃髪・得度をしていない年齢であることを表しています。
ただし宗派によっては「4~20歳未満」または「8歳以上で結婚をしていない人」とすることもあります。
「大童子」「大童女」のように「大」が前につく場合は、子供の場合でも年長であることを表す時に使います。
ちなみに7歳未満の未就学児の場合は、「孩子」「孩女」が使われます。
乳幼児の場合は「嬰児」「嬰女」とすることもあります。
また7歳未満の子供を総称して「嬰孩子」とすることもあります。
死産児・流産児の場合は「水子」とします。
戒名に使われる字が意味することは!?
戒名は「道号」「戒名」「位号」が1セットとなるのが基本です。
また戒名は2文字であることが決められています。
これは「仏の前ではみな平等である」とされているため、どのような身分であっても必ず2文字で表されます。
戒名でよく使われる字
戒名には草木や自然の地形、自然現象、事象などを表す字が良く使われます。
代表的なものを挙げると「菊」「蓮」「蘭」「松」「竹」「梅」「柏」「桂」「桑」「柳」「桜」「壇」などがあります。
男性によく使われる字
男性の場合は「岳」「厳」「剛」「鉄」「翁」などがよく使われます。
女性によく使われる字
女性の場合は「妙」「貞」「操」「鏡」「蓮」などがよく使われます。
幼い子供によく使われる字
幼い子供の場合は「稚」「夢」「露」「暁」「泡」などがよく使われます。
天寿を全うした老人によく使われる字
高齢で天寿を全うしたとみなされる年齢の場合は「寿」という字がよく使われます。
まとめ
戒名は仏弟子としての名前だけでなく、亡くなった人の人生や性格、残された人々への想いなどを2文字の漢字によって表しています。
もちろん宗派によっては戒名とは呼ばず法名と呼ぶこともありますし、戒名のつけ方にも宗派によって細かな決まりがあります。
また戒名に使われる漢字や仏弟子としての位を表す位号で、故人の性別や年齢も分かります。
ですから戒名は「死んだ人の名前」ではありません。
「間違いなくこの世に生を受けた」ということを表す大切な名前なのです。