自分の最期の時までに何が出来るかを考える「終活」がブームになってから、様々な業界が終活に関するセミナーを行うようになりました。
私も映画『おくりびと』と『エンディングノート』が全国的にヒットしたことによって、終活セミナーの講師として呼ばれることが増えました。
でも終活セミナーの講師として呼ばれる時には、セミナーの主催者から「こんなテーマでお願いします」とあらかじめテーマが指定されます。
そのテーマのほとんどが「葬儀社の裏事情」とか「葬儀費用を節約する方法」などばかりです。
確かにこのテーマでセミナーを開くと多くの人が集まります。
でも現役の湯灌士・納棺師でもあり葬儀ディレクターでもありながらカウンセラーとしての資格も持っている私としては、「本来の終活」と「集まるお客さんの興味の対象」にギャップがあるように感じます。
そこで終活を始めようとしているあなたや、終活を始めたけれどもどうしても自分に合わないような気がしているあなたが「あなたらしい終活」について考えるヒントを、現役の終活セミナー講師であり20年以上葬儀の現場に立つ私の体験談から提案してみます。
本当の終活とは!?
終活という言葉に「終わり」という言葉が付いているために、一般の人は「人生のお片付け」というイメージを持っていると思います。もちろんそのイメージ通りに身の回りのものを整理することも終活には含まれます。
でもそのことだけがクローズアップされるのは本来の終活ではないと思うのです。
本当に必要なのは「物を捨てる」ではなくて「思い出に区切りをつける」
終活では「断捨離」もブームです。
年齢を重ねていくと、だんだん物を捨てることができなくなってきます。
荷物の量は家族の人数によっても変わりますから、家族が増え子供たちが成長すると家の中にはたくさんのものがあふれてきます。
でも子供が独立するまでは限られたスペースを少しでも快適に過ごすために、大掃除のタイミングなどで不要になった生活用品や家財道具を一気に処分することもあったでしょう。
ところが子供が独立するとそれまで子供部屋として使っていた部屋が丸ごと空くので、わざわざ大掃除などで物を処分しなくてもスペースに悩むことはなくなります。
ただ部屋にスペースがあるがゆえに、子供が独立した後の方が家の中の物が増え続けてしまうのです。あなたの部屋も実は同じような状態なのでは?
でもあなたの部屋の中にある物の一つひとつを思い出してください。
周りの人から見れば価値がないように思える物でも、あなたにとっては懐かしい思い出が詰まった大切な宝物に見えているのではないでしょうか?
例えば「初めて孫が書いてくれたあなたの絵」などはどうでしょう?
小さな子供が描いた絵は、画面いっぱいに大きな円を何重にも描いただけだったりしますよね?
これはあなた以外の人から見れば「元気よくたくさんのマルを描いている絵」にしか見えません。
でもあなたには「孫が初めて書いてくれた大事な絵」です。
だから孫が大きくなってもあなたは大事に飾っているのでしょう。
つまり問題は「物に思い出がある」ということなのです。
思い出のない物であれば、「思い切って処分しましょう!」と一声かけられればあなただってためらわずに処分することが出来るはずです。
でもあなたにとって思い出がある物に対しては同じようには出来ないはずです。
だから断捨離に必要なのは、「物を捨てること」ではなくて「大切な思い出を整理する方法を考えること」なのと思うのです。
家族のために葬儀費用をあらかじめ準備するのは正しいお葬式の在り方ではない
終活では「お葬式の費用」について考えることも多いです。
最近では生命保険などのコマーシャルでも「葬儀費用の足しに出来る」をセールストークにしている商品もあります。
でもお葬式の費用をあらかじめ準備するのは、本来のお葬式の在り方とは違います。
考えてもみてください。
お葬式は「誰のため」にやるのでしょうか?
この世を去っていく「あなたのため」にするのでしょうか?
もしそうであれば葬儀費用をあなたがあらかじめ準備することには大きな意味があります。
でもお葬式にはこの世を去っていくあなただけが参加するのでしょうか?
実際にはあなたのお葬式にはあなたが大切にしている子や孫、またあなたのきょうだいや親族も参加するのではありませんか?
その人たちは「あなたのためだけ」にお葬式に集まるのでしょうか?
それは違うと思います。
あなたが大切に想う人は、あなたのことも大切に想っています。
もう二度と会うことが出来ないからこそ、お別れをきちんとするためにお葬式に参加するのです。
ハッキリ言っておきますが、家族がいたとしてもお葬式にお金だけを出して一切立ち会わない家族もいます。
本当に事情がある人も中にはいますが、その場合は何とか都合をつけて最後のお別れをするために奔走します。
でもそうではない人もいます。つまりお金のある・なしではなく、お葬式に立ち会うことそのものを拒否しているのです。
血縁者として最低限の義務を果たすためにお金を出しているのであって、家族として別れを惜しむつもりはないのです。
この現実を知ったうえでもう一度あなたの大切な人のことを考えてみてください。
あなたの家族はあなたがこの世を去った時にあなたとの別れを悲しんでくれますか?
それとも「面倒なことになった」とつぶやく人ですか?
もしもこの質問の答えが前者であるのなら、お葬式の費用を準備することが家族のためになるということはありません。
ただ少しでも負担を抑えるためにあなたが元気なうちにやっておくべきことはあります。
終活は葬儀費用を準備するよりきちんと整理する事!
葬儀費用を準備することよりも今のあなたが終活としてやっておいた方がよいのは、あなたの財産の整理です。
あなたが終活をするということは、今のあなたは重大な病気を抱えているわけではないということですよね?
ですからこれからの老後の資金や介護が必要になった時のお金などもきっと準備していることでしょう。
でも病気はある日突然やってくるものです。病気になって入院した時に、あなたがこれまで貯めてきたお金の管理は誰がするのでしょうか?
さらにもしもあなたが退院することなくこの世を去ったとしたら、そのお金はどうやって子供たちに渡すのでしょう?
まず知っておいてください。
かつて相続税は「お金持ちの税金」でしたが平成25年に法改正が行われたことによって「みんなの税金」に変わっているのです。
法定相続人の基礎控除額が大幅に引き下げられているので、あなたが管理している財産も相続税の対象になる可能性があるのです。
せっかくこれまでの生活を切り詰めて貯めてきた大事な財産を、税金として国にとられて子供に残せないことをあなたは望みますか?
出来ることなら相続税として国に渡す前に子供たちに渡しておこうとは思いませんか?
もしそれならば、今やるべきなのはあなたの財産の整理です。
生前に贈与することによって相続税対策になるものもたくさんあります。
でもこれは元気な今だからこそ出来ることです。
確実にお金を残してあげるのであれば、まずはそこから始めてみませんか?
本当の意味の終活って!?
終活の中で私が一番おすすめしているのが「先祖代々の墓の整理」です。
お墓の問題は大きな問題です。
でも注目されるのは「新たにお墓を建てること」の方です。
確かにあなたがこの世を去った時にお墓がなかったとしたら、残される家族としてはあなたの遺骨をどのようにするべきか悩むでしょう。
でもそれ自体は大した問題ではありません。
現代のお墓は様々なニーズに対応できるようになっています。
ですから家族のスタイルに合ったお墓や納骨方法を考えるはずです。
だから心配ないのです。
でも本当に問題なのは「先祖代々のお墓」の方です。
先祖代々のお墓となれば、近い将来お墓の修繕が必要になるでしょう。
また子供たちがお墓から遠い場所に住んでいるのであれば、これまであなたが守ってきたのと同じように管理していくことは難しくなりかもしれません。
でも先祖代々のお墓の整理を子供たちに引き継がせることは、相当な負担を押し付けるのと同じです。
墓を改修するにしても多額な費用が掛かります。
もしも子供たちが墓参りしやすいように新たに墓を購入したとしても、古い墓を壊し更地にするには多額の費用が掛かります。
お金だけではありません。精神的な負担も大きいです。
そもそも先祖代々の墓なのですから、どのようにしていけばよいのかわからないというのが子供たちの本音です。
そのことに対してあなたがあらかじめ「自分が死んだらこうしてほしい」ということを伝えているのであればよいのですが、それもしないままこの世を去ったとしたら大きな課題を残すことになります。
だからあなたの代で整理が出来るころはあなたが元気なうちに整理をしておくということが、本当の意味で家族のためにあなたが出来ることです。
そしてこれこそが本来の「終活」だと思います。
まとめ
終活セミナーで講師をしていても、時々「みんなが気になるのはお金のことだけなんだな」と思ってしまいます。
お金の話をテーマにすると、確かに多くの人が集まります。
でも終活は本当にお金のことだけが問題なのでしょうか?
終活セミナーの講師としてこのような問題を提起することも、「それこそ現実とのギャップではないのか?」とあなたに指摘されることでしょう。
それはごもっともなことなのですが、それでもあえてあなたに言いたいのです。
終活はあなたのためではありません。
あなたの大切な人のためです。
でもそのことに向き合うことで、あなたはこれまでの人生が彩り豊かだったことを改めて感じます。
つまり「大切な人のためにする終活」が、結果として「あなたのためになる」ということなのです。