亡くなった人が最後に身に着ける衣装を「死装束」といいます。
日本であれば一般的に白い和服となりますが、それ以外にも様々なものを身に着けます。
でも最近では「最後に身に着ける衣装なのだからこだわりたい」という人も増えています。
そこで今回は亡くなった人が最後に身に着ける「死装束」の意味について解説。
さらに「自分で死装束を準備するのであればどんなものが良いのか?」「死に装束でオシャレはNGなのか?」「色に決まりがあるのか?」などについても解説していきます。
伝統的な死装束を徹底解説
・そもそも死装束とはどんなもの?
死装束は「死者に着せる衣装」のことを言います。
ただし死装束には時代や歴史、文化だけでなく宗教によっても違うので、「これが死装束です」と言い切れないものでもあります。
■かつての日本は「切腹するときの装束」を意味していた
かつての日本には切腹という文化がありました。
自ら腹を切って自害をするわけですから、覚悟のうえでの死です。
そのため切腹をする時に身に着ける衣装のことを「死装束」といいました。
切腹をする際の死装束は白い衣装であったので「白い衣装=死装束」というイメージが強いのですがこれは単なる誤解です。
白い衣装は「穢れのないもの」という意味もあるので花嫁衣裳としても使いますし、神様に仕える神主の衣装や巫女の上衣としても使われます。
■日本で死者に白い衣装を身に着けるようになったのは仏教の影響
日本のお葬式の文化は仏教と深く関係しています。
人が亡くなると僧侶を招きお葬式をします。
僧侶を招くということは仏教儀式が必要になるということです。
そのため亡くなった人の衣装も仏教の修行僧の衣装である白装束を身に着けさせるようになりました。
■かつては死んだ人だけでなくその親族も死装束を身に着けた
日本では仏教の影響から死者の衣装は修行僧と同じ白い装束を身に着けさせるようになったのですが、かつては死者だけでなくその親族も死装束を身に着けていました。
現在でも喪主が白い衣装を身に着けることがありますが、これは一般的に既婚女性が喪主を務める場合にのみ見られます。
仏教式の死装束のそれぞれの意味は?
仏教では、人は亡くなると49日間の修行の末に仏の世界へ行くと考えます。
そのため死装束は修行僧の装束となります。
何しろ49日もの間旅をしながら修行をするわけですから、死装束は旅をすることを前提とした衣装となります。
そのため着物や帯以外にも様々な道具があります。
■経帷子
白い着物のことを経帷子(きょうかたびら)といいます。
かつては死者の女性親族によって手作りされていました。
作り方は地域によっても多少異なりますが「結び目をつけない」「引っ張りながら縫う」など通常の着物の作り方とは異なる風習がありました。
■宝冠、天冠、紙冠
額につける三角の布のことです。
様々な呼び方がある上に由来も諸説あります。
「49日の旅の途中で閻魔大王に会わなければならないため、失礼に当たらないように烏帽子の代わりにつける」という説もありますし、「旅の途中で餓鬼などに襲われないための魔除け」という説もあります。
また死者の家族が身に着けるということもあります。
こちらも諸説ありますが最も有名なのは「魔除け」として付けるという説です。
現在でも遺族がお葬式で三角の布を額に付けるという地域があります。
■頭陀袋(ずだぶくろ)
頭陀袋は修行僧が托鉢修行の際に首から下げて使うものです。
現在では頭陀袋の中に紙に印刷された六文銭が入れられているのが一般的です。
■六文銭(ろくもんせん)
仏教ではあの世とこの世を分ける境目に三途の川があるといわれています。
六文銭はこの三途の川を渡るための舟渡し賃です。
■脚絆(すねあて)
舗装されていない道を49日間歩き続けるわけですから、飛び石ですねを怪我しないようにするために身に着けます。
■手甲(てっこう)
手の甲につけるものです。
山道で木や枝をかき分ける時に手の甲を怪我しないために身に着けます。
■数珠
仏教では大切な仏具の一つとされています。
念珠ともいいます。
■草履・足袋
草履と足袋は左右逆にはかせるのが一般的です。
地域によっては裏返しにつけることもあります。
■編み笠・頭巾
頭巾は編み笠の下につけ、雨よけ・日よけとして使います。
■ふんどし・おこし
和装の下着です。
■木製の杖
長い修行の旅ですから木製の杖も死装束として準備します。
仏教でも宗派によっては旅支度をしない
仏教には宗派によって死後の考え方が違います。
多くの宗派は死後49日の修行を行うと考えているので白い着物とともに旅の支度もします。
ただし死後すぐに仏になるという考え方の宗派もあります。
この場合は白い着物と帯は身につけますが、旅の支度は身につけません。
また帯の結びや襟の合わせ方も生前と同じようにします。
死装束の着付け方
死装束の着付け方にはルールがあります。
■襟の合わせ方は「左前」
普段着物をつける時は、「右襟→左襟」の順で合わせる右前合わせです。
ただし死装束の場合は「逆さの作法」があるため、襟の合わせも「左襟→右襟」の順で合わせます。
これを「左前」と呼びます。
■帯の結び方は「縦結び」
帯の結び方で最も簡単なものは「蝶結び」ですが、これは死装束では使いません。
死装束の帯は「縦結び」といって、通常では使わない結び方をします。
縦結びがなぜ普段の帯結びとして使わないかというと「すぐにほどけてしまうから」です。
本来「日常とは異なる」という意味で着付けを行うのが死装束なので、帯の結びは縦結びとなるのです。
■紐の結びはかた結び
手甲や脚絆、宝冠(天冠)などは紐で結んで身に着けますが、この時の結び方は「かた結び」です。
「決してほどけてはいけない」という意味があります。
■旅支度をしない宗派ではすべて日常通り
旅支度をしない宗派では帯の結び方は「蝶結び」、ひもの結び方も「蝶結び」です。
死装束として終活中の女性に人気のフューネラルドレス
日本のお葬式では仏教式のお葬式が多いので、死装束となると白い着物一式となります。
でも和装文化のない欧米圏では「フューネラルドレス」を身につけさせます。
そして今そのフューネラルドレスは「最後の姿をオシャレに見せたい」と考えている日本の女性たちの間でも静かなブームになっています。
フューネラルドレスの特徴
フューネラルドレスには次のような特徴があります。
■着せやすい
全体的にゆったりとしたデザインになっているので、病気などで体形が変わってしまった場合でも着せやすいという特徴があります。
デザインも豊富なので「最後までオシャレにこだわりたい」という人におすすめです。
■カラーバリエーションがある
日本の伝統的な死装束は白のみですが、フューネラルドレスにはカラーバリエーションがあります。
「最後の衣装なのだから自分の好きな色を選びたい」という人が増えているのも背景にあります。
■治療によって出来たあざやキズを隠す
亡くなった人の肌には治療によって出来たキズやあざなどもあります。
このようなキズやあざは、見る人に闘病中のつらい記憶を思い起こさせてしまうきっかけになります。
そのためフューネラルドレスでは、レースやストールなどでさりげなく肌を隠すようにしています。
死装束にウェディングドレスでもいいの?
現代のお葬式では、仏教式のお葬式であっても死装束ではなく本人の愛用の着物や洋服などを身につけさせることが出来ます。
ですからウェディングドレスも問題はありません。
ただし準備する時には次のことに気を付けましょう。
・体のラインに沿ったデザインはNG
病気によって体のラインが変わってしまうことはよくあります。
特におなかに水が溜まってしまう症状(腹水)や全身に水泡が出来てしまう症状などの場合は着付けることが出来ないこともあります。
・ファスナー式のタイプがおすすめ
ファスナー式のウェディングドレスであれば、体にフィットするタイプのドレスでも後ろ側だけファスナーが開いている状態であれば着せることが出来ます。
・ボリュームのあるウェディングドレスはNG
スカート部分にボリュームがあるウェディングドレスだと、納棺の際に棺に入りません。
まとめ
伝統的な死装束にこだわる人もいますが、最近は「最後なのだからオシャレに着飾ってあげたい」という人の方が多いです。
ただし宗教や宗派によっては最後に身に着ける衣装に決まりがあることもあります。
あらかじめ自分の死装束を準備する場合は、こうしたことにも気を付けながら準備するのがおすすめです。