ひと昔前までは「相続税」というと「お金持ちの人の税金」というイメージでした。
でも今では一般世帯においても相続税の対象になるケースが増えています。
そのため終活においても「相続」に関する講座に人気が集中しています。
でもその相続に関するルールが2019年から新ルールに変更になっていることはあまり知られていないのでは?
そこで今回は2019年から始まる相続に関する新ルールの内容と注意点をわかりやすくまとめてみました。
相続法が2019年に改正される
相続税に関する法律は、民法の「相続法」において細かくルールが決められています。
1980(昭和55)年に一度法律の改正が行われたのですが、その後は基本的なルールに変更はなく小さな見直しが行われてきただけです。
法律の改正が行われた1980年頃といえば現在のような高度な医療技術はありませんでした。
またまだまだ日本人の平均寿命は短く、法律が見直される前に当たる1970年代の平均寿命は男性が69.18歳、女性が74.67歳でした。
ところが2017年時点における日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性も87.26歳です。
しかもこの平均寿命は毎年「過去最高記録」を更新中です。
超高齢化社会といわれている今、約40年前に相続法が改正された状況とは大きく変わってきています。
これが2019年に相続法のルールを大幅に変更することとなる大きな原因となりました。
・2015年に行われた法改正によって相続税が「みんなの税金」に変わった
大幅な相続税の変更は行われてこなかったといいますが、一般庶民の立場に立つと実は重大な法改正がすでに行われています。
それは2015年に行われた法改正による新ルールのことなのですが、これによって相続税は「お金持ちの税金」から「みんなの税金」に変わってしまいました。
相続法では、遺産を相続する人(法定相続人)に対して基礎控除額が定められています。
この基礎控除額は常に同じ金額ではありません。
意外と知られていないのですが、これまでも時代や状況に合わせてちょこちょこと変更が行われてきました。
法定相続人が2人であった場合、1970年には基礎控除額は2800万円でした。
ところがその後バブル期に突入しましたよね?
これによって地価の高騰が起こり、家を相続したくても相続税が払えずやむなく土地を売却して税金を支払うケースが増え大きな問題になります。
これには国も「さすがにマズイ!」と考えたのでしょう。
そのため1988年に基礎控除額を5600万円までひきあげます。
その後も基礎控除額は2回見直され、1994年の新ルールでは7000万円までひきあげられます。
さすがにここまで基礎控除額が上がると、よほどの資産を持っている人でなければ対象になりません。
そこで「相続税はお金持ちの税金」というイメージになりました。
では2019年現在、法定相続人が2人の場合の基礎控除額がいくらになっているか、あなたはご存知でしょうか?
なんと「4200万円」にまでひきさげられているのです。
これは2015年に行われた大幅な新ルールによるものなのですが、この金額になると一般家庭においても十分該当すると思いませんか?
さらにそのことを裏付けるデータもあります。
総務省の「家計調査(平成25年)」によると、65歳以上で2人以上の世帯の平均貯蓄額は2499万円です。
この数字だけを見ると「まだまだ相続税は私には関係ない」と思いますよね?
でもデータをもう少し詳しく見てみると、あなたも納得するはずです。
世帯主が65歳以上の世帯の場合、確かに貯蓄額が2000~2500万円が多いです。
ところがその数字の2倍以上にあたる世帯の貯蓄額は「4000万円以上」となっているのです。
「4000万円以上」となっているので、もちろんこの中にはお金持ちの人も含まれています。
ですから一概にこのデータだけではあなたも納得しないはずです。
でも貯蓄額が3000~4000万円という65歳以上の世帯も多く、これは平均貯蓄額である2499万円よりも世帯よりも多いのです。
ここまで説明するとあなたの中にも危機感が出てきますよね?
なにしろあなたの両親が土地付きの戸建て住宅に住んでいるのであれば、これだけで十分な不動産価値があります。
さらに65歳以上の平均貯蓄額を参考にすれば、いざ相続となった場合にあなたも確実に相続税の対象となります。
・誰でも対象になる時代だからこそ相続のルールは事前に知っておくことが必要
もともと相続税は「お金持ちの税金」というイメージが一般的に定着していただけに、一般の世帯で相続のルールについて知っている人はほとんどいません。
でも相続税は、遺産の相続を放棄しない限り相続人が支払わなければいけません。
ただほとんどの人が相続法や相続に関するルールについて知らないので、いざとなった時にどうすればよいかわからず困ってしまいます。
また「私には関係のないこと」とそのまま放置してしまう人も多いです。
でも相続税の対象となれば、相続人は相続税の納付義務があります。
その時になって慌てても、対策のしようがありません。
しかも相続権の放棄は「亡くなったことを知った日より3か月以内」が期限です。
この期限を過ぎてしまえば、法定相続人はルールに従って相続の手続きをすすめなければいけません。
ちなみに亡くなってから3か月というと、ようやく四十九日法要と納骨が終わり気持ちに少し余裕が出始めた頃です。
このタイミングで今度は「相続税」という未知のトラブルが目の前にやってくるのです。
これはさすがに知らないままでは恐ろしいですよね?
・2019年からの相続法改正はこれから喪主になる人は必ず知っておく必要がある
2019年に大幅に変更された相続に関する新ルールは、これから喪主となる人または相続人となる人は必ず知っておくべき内容です。
なにしろ2019年の新ルールでは、「超高齢社会にある現在の日本の状況に合わせた柔軟な相続のルール」となっているのです。
ですからこの新ルールの内容を知っていれば、これまでではNGだったことも今後はOKになる可能性があるのです。
相続法の改正で知っておくべき3つのポイント
【ポイントその①】配偶者居住権が新たに設置される
これまでのルールでは、亡くなった人(被相続人といいます)の配偶者が住んでいる家に住み続ける場合には、他の遺産を受け取れないケースがよくありました。
これは住んでいる家そのものが不動産として価値があるとみなされるからです。
そのため家に住み続けることを選択すると、亡くなった人の預貯金などがほかの法定相続人(一般的には子どもたち)に相続されます。
これではいくら住む場所があったとしても、残された配偶者は生活費に困ってしまいます。
そこで新ルールでは、亡くなった人の配偶者の居住権が新たに設置されます。
そのことによって家に住み続けながら預貯金などの遺産も相続することが出来るようになります。
【ポイントその②】遺産分割対象の預貯金の一部を払い戻ししてもらうことが出来る
2019年の相続法改正では「預貯金払戻し制度」が新たに設置されます。
以前のルールでは「亡くなった人の遺産を守ること」と「法定相続人が公平に遺産を相続すること」を目的に、遺産分割が終了するまでは法定相続人が単独で預貯金を払い戻しすることはできませんでした。
これが2019年の相続法改正によって、相続人が単独で一定の範囲内の預貯金を払い戻ししてもらうことが出来るようになります。
しかもこの手続きは家庭裁判所の判断が必要ありません。
いざお葬式となると、短期間の間に高額なお金を準備しなければいけません。
これまでのルールではこのような状況であっても亡くなった人の預貯金から費用を捻出することはできませんでした。
でもこの相続法改正によって「お葬式にかかる費用を調達する」「お墓(納骨堂の利用)の契約金を支払う」などが目的であれば、遺産分割が終了する前であっても一定額の預貯金を払い戻ししてもらうことが出来るようになります。
【ポイントその③】法定相続人以外の親族が相続人に対してお金を請求できるようになる
これまでのルールでは、基本的に法定相続人となっていました。
ところが相続法改正では「特別の寄与の制度」が新設されます。
例えば亡くなった人(被相続人)に長男・次男・長女の3人の子どもがいたとします。
亡くなった人は長男夫婦と共に暮らしていましたが、その長男が先に亡くなってしまったため長男の妻が介護や生活の世話をすべて行っていました。
このような場合の遺産相続では、長男の嫁からの不満が多く出ました。
なにしろこれまでのルールでは、長男が死亡した時点で「長男の遺産相続権」がありません。
ですから妻は介護や生活のサポートを一人で引き受けていたとしても、最後まで面倒を見た人の遺産を一切もらうことが出来ません。
ところが相続法改正では、死亡した長男の妻が法定相続人である次男・長女に遺産相続に相当する金額の請求が出来るようになります。
長男の妻に相続権が発生するということではないのですが、その代わりとして正しく遺産を請求する権利を認めています。
ですからこの場合に長男の妻は、遺産を相続した次男と長女に対して遺産に相当する金額を請求することが出来るようになるのです。
相続法改正の注意点
相続税や相続に関する相続法改正の一番の注意点は、「制度が施行される時期」です。
2019年から始まる相続法改正によって「争続」とよばれた相続も、かなりの人が気持ちよく相続が出来るようになります。
ただしこのルールの施工時期については違いがあり、内容によって段階的に行われます。
もちろん今回紹介した新ルール以外にも新たに変更・新設されたこともあります。
ただしいずれにしても施工のタイミングがそれぞれ違いますので、きちんと施工開始時期を確認することが注意点です。
詳しい内容については法務省ホームページを確認してください。
また新ルールに関するパンフレットは各自治体役所などで無料配布されています。
まとめ
相続に関する新ルールは、これまでの複雑かつ制限の多いルールとは違い時代に遭った柔軟なルールになっています。
ただしこうした情報は、あくまでも事前に知っておくということが大事なポイントです。
終活中の人も、これから喪主となる人も、相続に関する新ルールを知ることによってかなりの精神的負担が減ります。
しかも「自筆証書遺言」についての変更もありますので、終活で遺言書について考えている人などはぜひ法務省ホームページなどで詳しく内容をチェックしてみてくださいね。