死別した夫の遺品整理をしていると、それまでは見えてこなかった夫の様々な一面が見えてくることがあります。
中でも厄介なのが「夫が生前、妻に内緒で借金をしていたケース」です。
借金となるとお金が関係してくることですし、妻であるあなたに内緒で借金をするくらいですからどのような意図で借金をしたのかもわかりません。
少なくとも理由がわからないお金は一円も払いたくないというのが、妻であるあなたの本音ですよね?
ただ借金とは別に夫があなたを受取人として死亡保険金が支払われる生命保険に加入していたことが同時に分かったなら、あなたはどうしますか?
今回は夫の死によってトラブルになる「相続」のうち、法定相続人である妻に関係がある借金と死亡保険金について分かりやすく解説します。
借金も財産も相続の対象
相続というと「財産の相続」のイメージがありますよね?
例えば「預貯金の相続」「住宅の相続」「宝飾品の相続」などは典型的な死亡後の相続のイメージに当たります。
でもこれは相続の対象となるもののほんの一部です。
夫の死によって妻であるあなたが相続するのは、「プラスの財産」と「マイナスの財産」の2つがあります。
プラスの財産
プラスの財産は「資産」とみなされるものはほとんど対象になります。
現金や貯金などはもちろんですし、土地や建物などの不動産もプラスの財産です。
さらに株券や証券投資委信託などの有価証券なども対象になります。
ゴルフの会員権なども同じ扱いになります。
また現金化することが出来る物もプラスの財産になります。
家具や自動車はもちろんですが、電話加入権も現金化できますのでプラスの財産として分類されます。
ちょっと変わったところでいえば、亡くなった夫に貸付金や売掛金があった場合もプラスの財産として妻が相続することが出来ます。
マイナスの財産
今回のテーマである「夫の借金」はマイナスの財産になります。他にも夫に未払い金や買掛金があった場合もマイナスの財産になります。ちなみに未納の税金もマイナスの財産になります。
・妻であっても相続を放棄することはできる
相続は争いのもとになるといいます。
そのため「相続=争続」と表現することもあります。
遺産相続の対象となる財産がある場合、相続の対象は相続人になります。
もちろん妻であるあなたは夫の財産を相続する権利があります。
ただし相続の権利があるのは妻だけではありません。
「法定相続人」と呼ばれる人もいるので、子どもがいないとしても全ての財産を妻であるあなた一人が相続することが出来るとはかぎりません。
もちろん配偶者であるあなたは、確実に相続人になります。
ただ夫の血族も法定相続人となることがあります。
優先順位としては1~3位まであり、配偶者の次に優先されるのが「子ども」です。
ただし子どもがいない場合は、第2位として夫の両親及び直系尊属が対象になります。
順位が同じ対象者は全員が相続人になるので、夫の死後財産があると分かった時点で突然親族が押し掛けてくることもあります。
このような場合、トラブルを避けたいのであれば妻であっても相続を放棄するという方法がおすすめです。
・相続をするならば「プラスの財産だけ相続」は出来ない
妻は配偶者という立場にあるので、夫の財産の相続人となります。
でも今回のように夫の借金がある場合、マイナスの財産とプラスの財産の内容を見て相続をするか決めるのが一般的です。
少しでも財産があるのであれば「プラスの財産だけ相続したい」という気持ちはわかります。
でも相続をするとなればどちらの財産も相続しなければいけません。
つまり「借金は相続したくないけれど、現金や貯金は相続したい」という都合の良い相続は出来ないのです。
・借家権・借地権は相続できる
ちなみに借地・借家があるという場合ですが、こちらは妻であるあなたが相続をするのであれば相続の対象となります。
借地・借家の場合、世帯主である夫が名義人となって「借家権」「借地権」を持ちますよね?
この2つは法律でも「相続の対象となる財産権」と判断されるので、妻がその財産権を相続することはできます。
さらにあくまでもこれは「相続」ですから、貸主(オーナー)の承諾はいりません。
また名義変更のための書換料もいりません。
ただし財産権を譲渡する場合には貸主への書換料が必要になります。
そのためそのことに便乗して請求してくる貸主もいますが、これは法的な根拠がありませんのであなたが支払わなくても何も問題はありません。
相続を放棄しても夫の死亡保険金は受け取ることが出来る
夫が加入していた生命保険の死亡保険金の受取人が妻であるあなたとなっていた場合、気になるのは「相続を放棄しても受け取れるのか?」ですよね?
これについては先に結論から言いますが「受け取れる」が正解です。
もともと生命保険の死亡保険金は、加入者である夫が死亡したことで初めて発生する財産です。
つまり高額な死亡保険金であっても、夫が生きているうちには絶対に手元に入ってこないお金です。
ですから「生前に有していた財産ではない」と判断します。
この表現だと難しく聞こえてしまいますが、わかりやすく説明すると「相続の対象になるのは夫が生きているうちに形として残したもの」となります。
そのため夫が死なない限りお金にならない死亡保険金は、相続の対象にはならないのです。
借金は相続せずに死亡保険金だけをもらうには!?
プラスの財産よりも夫の借金の額の方がはるかに大きかった場合、これからのあなたの人生のことを考えればすべての相続を放棄してしまう方がはるかにメリットはあります。
例えば土地・建物といった不動産がある場合でも、その評価額が購入当時と変わらないという保証はありません。
特に一時期ブームになったアパート経営のための古い建物だと、すでにアパートとしての利用が出来ないほど老朽化している場合もあります。
しかもそのアパートが建てられている土地の評価額も二束三文であれば、なおさら損をします。
ちなみに相続税は相続人に請求されますので、古いアパートであってもあなたが相続をすれば相続税の納付義務もあなたに発生します。
ところがアパートとして利用が出来ないほど老朽化した建物となれば、安全のためにも取り壊しをする必要があります。
でもその費用はあなたが思っている以上に高額です。
また古いアパートを取り壊して土地を売却しようとしても「相続税」と「建物の取り壊し費用」が発生するので、トータルで計算するとプラスになるどころか大きなマイナスになることもあります。
この場合は潔く相続の放棄をした方が、あなたの第二の人生に負担が残りません。
・相続開始の3か月以内に相続放棄をすること
これは相続税の対象とはなりませんから、振り込まれた金額はすべてあなたのお金になります。
それであれば子供や親族と争わずに確実にまとまったお金を受け取るために、相続開始の3か月以内に「相続の放棄」をしましょう!
相続の開始時期は「死亡を知った日」となります。つまり夫が死んだ日が相続の開始日となります。
ここから3か月以内に相続放棄手続きをすれば、あなたは夫の借金を相続することなく死亡保険を受け取ることが出来ます。
まとめ
夫の死後に妻であるあなたに内緒にしていた借金の事実が分かると、怒りと共に「お金をどうすればいいの?」と不安になるでしょう。
でも借金は相続の放棄をすれば、妻であるあなたが夫の代わりに返済する必要はなくなります。
またあなたを受取人とした生命保険の死亡保険金は相続の対象にはなりませんから、相続の放棄をしても確実に妻であるあなたが受け取れます。
ですからこのようなケースの場合はプラスの財産があったとしても思い切って相続放棄をし、確実にあなたが受け取ることが出来る死亡保険金を今後の生活費として確実に確保していきましょう。