葬儀業界は昔から「3K」と言われています。
ここでの3Kは良い意味での「3K」ではなく厳しい方での「3K」を意味します。
そのため業界に入ってくる人も多いですが、諦めて出ていく人も多いのです。
私の周りでもこれまでどれほど多くの人が業界に入り、そして去っていったか分かりません。
新しい人が入ってきても「いつまで続くかね」というのが本音で、半年過ぎてようやく仲間として受け入れられます。
つまりそれだけ入れ替わりの激しいのが葬儀業界なのです。
ただ続ける人も多いです。
もちろん一つの会社に長く勤める人も多いですが、同じ業界内で転職する人も多いです。
そこで今回は葬儀の仕事を続ける人と辞める人のそれぞれの言い分をリアルな本音で紹介します。
葬儀業界を去った人が陥りやすい「バーンアウト」という落とし穴
葬儀の仕事をする上で本当に必要なのは、葬儀の知識や技術ではなく「一生懸命さ」です。
確かにいろいろな場面で葬儀専門の知識は必要になります。
ないよりはあった方がより細やかな対応が出来るようになります。
また技術があればお客さんが想像している以上のサービスを提供することもできます。
でも知識も経験も身に着けるためには時間と努力が必要です。
しかもお葬式は「感情」に訴える物なので、いくらマニュアルがあったとしてもそれだけでは何の役にも立たないのです。
でも感情に訴える仕事だからこそ、一生懸命に向き合う姿はお客さんの共感を呼びます。
だから技術や知識があっても何もしないベテランスタッフよりも、汗びっしょりになって必死に現場を走り回っている新人スタッフの方がお客さんの印象には残ります。
ただ一生懸命仕事をする人ほど「バーンアウト(燃え尽き症候群)」に陥ります。
・お葬式に「完璧」なんてない
私自身も長く葬儀の現場に立っていますが、「今回のお葬式は完璧だ」という現場を一度も経験したことがありません。
いつもどこかで「もっとこうすればよかった」という反省があります。
でもそのことを前向きにとらえられるようになるには、経験と時間が必要でした。
私も若い頃、バーンアウトを経験しています。
一番悩んだのは「正しい答えとは?」という問いに対する答えがないからです。
失敗しても「ありがとう」といわれることがあります。
でもミスもなく完璧だと思えるお葬式をしたつもりでもクレームが出ることがあります。
その違いには何があるのかはっきりとしたものはわかりません。
でも100万円のブランド時計と100万円のお葬式を例に比較してみるとなんとなくわかるようになります。
例えば100万円でブランド時計を購入したにしても、正規価格が150万円を50万円も値引きしてくれて100万円になったのであれば素直にに店員さんに「ありがとう!」といいますよね?
これは150万円の時計の価値があきらかにわかるからこそ、値引きの意味が大きいわけです。
ところがお葬式の場合はどうでしょうか?
「本来なら150万円ですが、今回は50万円値引きの100万円になります」といわれても素直に喜べるでしょうか?
逆に「その値引きの根拠がどこにあるのか?」とか「本当はもっと安いんじゃないの?」と勘繰ったりしませんか?
そもそもお葬式は他と比べることが出来ません。
しかも形に残らないので、あとから比べるということもできません。
だから依頼した人が請求された金額に見合うサービスを提供してもらったと感じた時に、初めて支払うお金に価値が出てきます。
ただ「満足」という評価はとてもあいまいです。
何を満たしていれば満足するのかがハッキリとしているのであれば評価された側としても納得できるのですが、そこがあいまいだからこそ評価される側として納得が出来ないのです。
そのことを本当の意味で理解が出来るようになると、どのような評価であっても前向きに受け取ることが出来るようになります。
でもお客さんの評価に対して「自分が未熟だからクレームが出るんだ」とか「もっと自分に知識や経験があれば評価されていたに違いない」と思い込んでしまうと、バーンアウトしてしまいます。
かつての私はこの状態でした。
一生懸命やればやるほど心が落ち込んでいき、何に向かって頑張っていけばよいのかわからなくなってしまいました。
こんな状態のときほど普段はしないようなミスを犯してしまい、さらに自分を追い詰めます。
私以外にも同じような状態に陥ってしまい、最終的に「もうこの業界をやめるしかない」と思って去って行った人がたくさんいます。
今も去るべきか残るべきかで悩んでいる人もいます。
でも私は悩んでいる人に「続けたら?」とは言いません。
続けたからといって物事が変わるわけではないのです。
「今日出来ることをやり切ったから、1日分経験が増えた」と思えるようになれば変わるきっかけになります。
とにかく明日も今日と同じことを繰り返せばよいのです。
次の日も、その次の日も「今日出来る最高のことをするだけ」と考えられるのなら、お葬式の仕事はやりがいになります。
でもそれがツラいのであれば、この業界を去っていくしかないのです。
葬儀業界を辞める人の言い分
・給料が安い
24時間365日営業日の葬儀業界の給料は、周りの人が思っているほど高くはありません。
もちろん経験と技術があれば給料は高くなります。
でも業界に入ったばかりの新人スタッフが、業界歴40年のベテランスタッフと同じ給料がもらえるわけはないのです。
そもそもお葬式は拘束時間が長いですが、自由な時間も多いのです。
デスクワークのように「机に向かっている時間=仕事時間」ではありません。
時間に追われるように忙しくしていることもあれば、何もなくて一日中待機しているということもあります。
夜勤勤務の場合も同じです。
夜中に葬儀の依頼がなければ、夜間勤務であっても基本的に何もすることはありません。
仮眠をとって休んでいても問題ありません。
その代り一晩中依頼が入り続ければ、夜勤勤務が始まってから翌朝まで休む間もなく対応に追われることもあります。
でも基本的に夜勤手当は同じです。
ですからびっしりと8時間休む間もなく働いている状態が常に続いているのであれば、葬儀屋さんの給料も世間でイメージしている通りに高いでしょう。
でもトータルで見ると待機している時間が長いだけに葬儀業界の給料は安いのです。
葬儀業界を続ける人の言い分
葬儀業界を続ける人の言い分には全く真逆な2つの言い分があります。
お葬式の仕事を「普通の仕事」として割り切れるのであれば「暇だから」が辞めない理由です。
これに対してお葬式の仕事を「天職」と思っている人は「やればやるほど奥が深い」ことが続ける理由になっています。
どちらのタイプも業界には多いのですが、お客さんの立場で見れば後者の考えを持っている人の方がいい葬儀スタッフだと思うはずです。
でも私は前者のようなタイプがいるからこそこの業界は成り立つのだと思います。
暇だと感じるということは、お葬式の仕事に対してとてもドライに向き合っています。
ですから私が体験したようなバーンアウトは起こしません。
結論がないお葬式の仕事ではどこかで割り切る気持ちを持たなければ続けられません。
でも続けていれば、いずれ経験も知識も増えてきます。
しかも年齢を重ねればこれまで「スタッフ」としてしか立ち会ってこなかったお葬式も「遺族」として立ち会う時が来ます。
その時に今一度自分の仕事を振り返ることが出来ます。
このチャンスを生かして仕事に向き合う姿勢が変わったスタッフを私は知っています。
だからどのような理由であっても「辞めずに続ける」ということは、葬儀業界で働くことに向いていると思うのです。
まとめ
葬儀業界を続ける人も去る人も、現場に立っている時に感じたことがその大きな理由になっています。
でも葬儀の現場には人の死が関係しているために、このことを表立って本音で語る人はいません。
でも葬儀業界で働く人にだって、働くことに葛藤がないわけではないのです。
感情があるからこそ「続ける」「辞める」の結論に至るわけなのです。
ほんの少しでもそのことを業界以外の人が理解してくれれば、今回私が告白したことにも意味が出てくるような気がします。