お葬式の現場は、一般的な職場とは違いほとんど表舞台に出ません。
確かにお葬式は「人の死」が前提にあります。
それだけに興味はあったとしても、仕事場を見学するということは現実的ではありません。
もちろん葬儀社が主催する「お葬式フェア」や「終活セミナー」などでお葬式の会場や葬儀サービスのデモンストレーションを見学することは出来ます。
でもこれはあくまでも葬儀社の顧客獲得のためのイベントなので、実際に現場で行われているものとは全く違います。
そこで今回はあなたの知らないお葬式の現場を、現役葬儀スタッフである私が紹介!
お葬式の現場で働く人に対するあなたの素朴な疑問をリアルな本音で解説してみます。
なぜお葬式の仕事をしようと思ったの!?
葬儀の現役スタッフであれば誰でも一度は「どうしてお葬式の仕事をしようと思ったの?」という質問をされた経験があります。
私だってこれまで何度となく同じ質問を受けてきました。
さすがにお葬式の業界に20年以上いるとこんな質問にも動じることなく対応できます。
ただしほとんどの場合「お客さんが期待する答えを返す」だけで、本音で答えることはあまりありません。
お客さんとしては「こんなに大変な仕事を女性の人がやるなんて大変ね」という言葉をかけたいだけであって、私が業界にどんな理由で入ったかなんて正直なところほとんど興味はありません。
もちろんリアルな本音でこたえるケースもあります。
ただしあくまでもお葬式の仕事は「接客業」。
つまりサービスを提供してなんぼの世界なのです。
だからお客さんが求める答えを返してあげることが、お葬式の仕事の一つでもあるのです。
そうはいっても葬儀社の仕事は一般的なサービス業とは違います。
棺や骨壺などの販売もありますから、ある意味では「販売業」といえるかもしれません。
でもお葬式で販売されるものは、基本的に「形として残らないもの」です。
形に残らない棺に数十万円を支払い、墓に収められてしまえば二度と見ることがない骨壺にも同じように高額なお金を支払うのです。
手元に残るのは「想い出」だけです。
そう考えてみるとわずか数日間で手元に残らないものに高額なお金を支払うお葬式は「高い」以外に当てはまる言葉がありません。
実は「お葬式は高い」というイメージは、葬儀社を利用する側だけが抱くものではありません。
葬儀業界で働こうとしている人の多くが同じイメージを持っています。
つまり「葬儀業界に入れば給料が高い」と考えて飛び込んでくる人がとても多いのです。
だから「あなたはどうしてお葬式の業界に入ろうと思ったの?」とお客さんに質問されてリアルな本音で返す人はほとんどいないのです。
だって「給料が高いと思ったから」なんていわれて、「そうだよね!」と納得するお葬式のお客さんがどこにいるでしょうか?
そもそも給料が高いということは、言い換えれば「お葬式の料金が高い」ということと一緒です。
しかもそのお金を支払っているのが目の前にいるお客さんなのですから、口が裂けても「給料目当てで!」とは答えられません。
でも、これがリアルな本音で圧倒的に多い意見なのです。
ただ実際に葬儀業界に入れば給料が高くなるということはありません。
あくまでもお葬式の現場は技術職ですので、技術と経験を積まなければ給料は上がりません。
下積み時代は必ず存在しますし、すべてが一人で出来るようになるまではとても時間がかかります。
もちろんこの段階で給料だけが高くなるなんてことは絶対にありません。
それでも「お葬式は高い」というイメージが強すぎるので、実際に働いてみるとイメージと現実とのギャップに驚愕します。
そして「思っていた世界と違った!」といってすぐに去っていきます。
だから長く現場で働いていると、業界に新人が入ってきてもあまり気にしません。
何しろいつ辞めるかわからないのですから…。
お葬式の現場で働いていて楽しいの?
お葬式は人の死を扱う特殊な仕事です。
でもあくまでもサービス業の延長上にあるので、現場で働いている私たちスタッフにとっては特別という感覚はありません。
さすがに初めて仕事の現場に立つときは緊張しますが、少しずつ仕事を覚えていけばやりがいを感じることもあります。
仕事にやりがいを感じるということは「楽しい」です。
ですから「お葬式で働いていて楽しいの?」と聞かれたら、「楽しい」と答えるのもリアルな本音です。
ただ困るのは「どんな時に楽しいの?」という質問です。
どんな時に楽しいと聞かれても、具体的に答えるのは少々難しいのです。
例えば「高額な葬儀商品の受注が取れた」という時は素直に嬉しいと感じます。
でも高額な商品を購入してもらったからには、満足してもらえるように料金以上のサービスを提供しないといけません。
支払う金額とお客さんのイメージが違っていれば即クレームです。
最悪の場合「葬儀費用が回収できない」もあります。
だから高額な受注が取れて喜ぶのは一瞬で、すぐにものすごいプレッシャーがのしかかってきます。
お葬式が終わり全ての葬儀費用が集金できた時、初めてホッとします。
無事にすべての業務が完結したことに対する安心感と達成感が同時にやってくるので、ものすごくテンションが上がります。
この瞬間は、この仕事をしていて最高に楽しいと思います。
もちろんほかにもお葬式の仕事を「楽しい」と思う瞬間はあります。
でもそこにはやはり誰かの死が関係しているので、うまく表現するのは難しいです。
ただお葬式の現場で働いているスタッフであれば、「○○さん、あなたのおかげでいい式が出来た。ありがとう」という一言をお客さんから言ってもらえた時が一番うれしいと感じます。
これがリアルな本音です。
葬儀社に勤めていてツライ事って!?
お葬式の現場で働いていれば、「なんて日だ!」と思わず叫んでしまうようなイヤな出来事にも出くわします。
特に年齢が若いうちは人生経験も浅いですから、ちょっとしたことでも落ち込んでしまうことが多いです。
なにしろお葬式の現場は「人生劇場」そのものです。
私が担当した現場でもたくさんの人生劇場がありました。
例えば遺体をようやく安置先に連れてきたのに、線香もあげずに遺体を挟んで子供同士がそれぞれの弁護士を連れてきて突然遺産相続バトルを始めた現場にも立ち会いました。
かといえばお金がなくて棺に入れるお花を準備することが出来ない小さな子供たちが、若くして病気で死んだ母親のために折り紙で花を折り「私が作ったお花だよ」と泣きながら棺に入れるシーンに立ち会ったこともあります。
火葬場で火入れのスイッチが入れられた瞬間に喪主がショックで意識を失い、倒れて頭を打って怪我したため救急車で病院に搬送してもらったこともありました。
産婦人科から葬儀の依頼があった時は、死産児をベッドで抱きながら泣き叫んでいる母親の姿が病室にありました。
小さなわが子を連れていかれまいと必死で抱きかかえる母親を、2時間かけて説得して遺体を引き取ったこともあります。
数々の現場を経験してきたものの、葬儀の現場にいる限りそれを受け入れるのがプロ。
その意識があるからこそ続けることが出来る仕事なのだと思います。
ただ一番心が苦しくなるのは、身内にこの仕事をしていることを否定されることです。
私の母も、かつてはこの仕事をしている私を認めてはいませんでした。
現場で抱えていた重苦しい気持ちを少しでも軽くしたくて母に話しても、返ってくる言葉は「そんなにつらいなら辞めたらどうなの?」と。
もちろん母親だからこそ娘を想ってそう答えたということはわかります。
でもその根底にあるのは、葬儀の仕事に対する偏ったイメージがあるのは娘ながらに感じました。
でも今の母は私の仕事を誇りに思ってくれています。
それは祖母のお葬式を私が担当したことで、私の仕事を間近に見ることが出来たからだと母はいいます。
お葬式の現場で働いているスタッフの多くは、この問題に対して自分なりの答えを出さなければいけません。
一番良いのは「家族が理解してくれること」です。
でもそれが叶わないこともあります。
そのときには「理解されない存在」ということを自分自身が認めなければ仕事を続けることはできません。
この問題は、葬儀の仕事を「仕事」として割り切ることが出来る人には存在しません。
でも「プロ」として葬儀の仕事を極めたいと思っている人であれば、誰もが抱える心の闇です。
この闇が晴れないうちは、葬儀の仕事をしていることが時折苦しい・ツライと感じます。
まとめ
葬儀の現場で働く現役スタッフのリアルな本音をあえて紹介してみましたが、あなたにはどう映りましたか?
お葬式は確かに非日常の出来事です。
でもお葬式の現場で働いている人も、あなたと同じ「普通の人」なのです。
いい面もあれば悪い面もあります。
人によって考え方も個性も違うので、仕事に対する意識も人それぞれです。
ただ葬儀の現場に初めて足を踏み入れた瞬間は、誰でも「最高の葬儀スタッフになりたい」という想いを強くもちます。
そこから先は人それぞれ。
だから「いい葬儀社に出会えるのは宝くじに当たるのと同じ」といわれるのかもしれません。