お葬式は地域の風習な慣習によっても大きく変わります。
都心部ではあまり地域の風習や慣習といったものは強く見られませんが、地方に行くと今でも風習や慣習が根強く残っていることが多いです。
中でも沖縄のお葬式は独特です。
もともと沖縄は「琉球王国」という独立した国でした。
琉球王国は中国をはじめとする諸外国との貿易によって発展してきた歴史があるため、文化や風習も沖縄独自のものが多いです。
もちろんお葬式における風習や文化も沖縄は独特です。
そんな沖縄では、葬儀を担当するにしても本土の常識がことごとく通用しません。
そのため沖縄で葬儀を担当するために私自身も一から勉強し直したほどです。
そこで今回は地域によってお葬式のやり方がここまで違うということを実証するために、思い切って「沖縄のお葬式」を例に挙げて解説してみたいと思います。
沖縄では宗教・宗派よりも地域や一族の風習が重要視される
一般的にお葬式では、何らかの宗教のスタイルによって行います。
宗教では「死」に対する解釈が違うので、お葬式の流れも宗教によって変わります。
ですから仏教であれば仏教の考えに基づいて式がすすめられますし、その他の宗教においても同じことが言えます。
あまり一般的ではありませんが、宗教の考えに基づいたお葬式を避けたい人は「無宗教式」または「自由葬」というスタイルを選びます。
ところが沖縄では宗教に基づく考え方よりも、古くから地域や一族の間で伝わる風習の方が重要視されます。
・お供え物は沖縄琉
沖縄では仏教はほとんど根付いていません。
それでもお葬式では仏式で行うことが多いです。
ただし沖縄には檀家制度がなかったため、お葬式でお坊さんを手配するときも宗派にこだわる人はいません。
沖縄でも死者へのお供え物は仏式のお葬式のように準備します。
一膳めしも枕団子も基本的にはお供えします。
ところがその準備の仕方はやや沖縄流です。
一膳めしは基本的に本土での一膳めしと作り方は同じです。
茶碗に盛り飯を作り、真ん中に箸を立てます。
これは本土でも同じです。
ただ沖縄の場合、地域のよって箸を十字に突き立てる地域もあります。
これは「隠れキリシタン」がかつて一膳めしを作るときにやっていたといわれる方法です。
ところが沖縄では隠れキリシタンだったことが理由で箸を十字に立てたというわけではないようです。
とはいえなぜ十字に箸を立てるのかという意味についてはよくわかっておらず、「風習だから」としかわかりません。
ちなみに枕団子も沖縄では数が違います。
仏教では枕団子は6つ供えるものですが、沖縄では1つの皿に7つの団子をのせたものを2皿準備します。
合計14個の団子になるわけですが、なぜ14個必要なのかについてはわかっていません。
ちなみに枕団子をお供えしないでゆで卵を供える地域もあります。
そのほかにも仏教なのにお供え物に豚の塊肉を茹でたもの(三枚肉)や島豆腐、塩・味噌をお供えします。
私も最初は「仏式でお葬式をするのにお供え物に肉を使ってお寺に怒られないのか?」と思ったのですが、沖縄のお坊さんは肉がお供えされていても何もいいません。
またお供えしてはいけないという人もほとんどいません。
これもまた沖縄ならではです。
・お通夜式はしない
沖縄では通夜式はありません。
お通夜そのものは一応ありますが、特別何かをするわけではありません。
ですから「通夜ぶるまい」というものはありません。
仏教式のお葬式でも、枕経や通夜勤行を行うことはしません。
あくまでも家族や親族が集まり、最後の夜をみんなで過ごすだけです。
もちろん一般弔問客がお通夜に足を運ぶことはあります。
この場合は「故人と付き合いの深い人」や「翌日の告別式に参列できない人」です。
前者の場合は喪服で参列しますが、後者の場合は仕事帰りに立ち寄る人も多いので中には作業服のまま式場に来る人もいます。
・お坊さんのお布施は「戒名料込」
一般的にお寺にお葬式の供養をお願いする場合、読経供養に対する「お布施」と戒名を授けていただくための「戒名料」の2つを支払います。
戒名料は戒名のランクによって変わりますが、お布施と併せるとかなりの高額になります。
さて沖縄の場合ですが、お布施の金額にもお葬式での読経の時間も沖縄は独特です。
まずお葬式は、1日で「出棺式→火葬→葬儀・告別式→納骨」まですべて行うのが一般的です。
仏式のお葬式をするとそれぞれの場面でお坊さんが読経をしてくれますが、読経の時間はかなり短いです。
例えば本土の仏教式のお葬式では一般焼香の最中にも読経供養をしますが、沖縄ではほとんどのお坊さんが約30分の葬儀式のうち2/3程度で読経は終わってしまいます。
中には10分程読経したら退場してしまうお坊さんもいます。
たったこれだけの読経供養で、お布施の相場は6~8万円です。
こうやって説明すると「沖縄は高い」と思うかもしれません。
でも沖縄の場合、戒名料はお布施の金額に含まれます。
それを聞くと「安いのかも…」とも思いますよね。
ただし今のご時世、お寺のお坊さんも人材派遣で依頼が出来る時代だってこと、ご存知ですか?
しかもお坊さんの人材派遣のお布施は3~5万円が相場なのです。
もちろんこちらも戒名料は込み!
沖縄ではお寺を依頼する場合「出来るだけ安くひきうけてくれるお坊さん」が人気です。
墓も門中墓と呼ばれる一族の共同墓が未だに主流ですから、お坊さんの宗派にこだわる必要がないのが沖縄の特徴です。
つまり沖縄なら人材派遣のお坊さんを利用した方が圧倒的にお得だということになります。
ただ残念ながら今のところ沖縄にお坊さんの人材派遣サービスはありません。
今後沖縄でもサービスが始まったら、お布施の安さから一気にブームになるかもしれませんね。
沖縄ではお葬式の告知のための新聞広告が主流
沖縄では横のつながりをとても重視します。
そのためお葬式に参列する範囲も、故人を直接知っている人とは限りません。
故人の家族または親族の友人・知人でも参列します。
そのため沖縄では一般の人でもお葬式の告知として新聞に死亡広告を掲載します。
ちなみにお葬式はビジネス上でも大事な付き合いになります。
ですから沖縄のビジネスマンは、新聞広告の死亡広告欄に目を通してから紙面に目を通す人も多いです。
ただし最近は沖縄でも家族葬と呼ばれる規模の小さなお葬式がブームになっています。
家族葬の場合は新聞に死亡広告を掲載しませんので、会葬者が多いといわれる沖縄でも比較的規模の小さなお葬式をすることが出来ます。
とはいえ新聞掲載をすれば会葬者(香典の預かりも含む)が平均200名を超えますので、やはり本土のお葬式の規模とは大きく違います。
沖縄で供花を注文するときは1対が主流
お葬式に参列できない場合に弔電とセットで贈る供花も、沖縄は独特の注文スタイルがあります。
本土では供花は「1基」が主流ですが、沖縄では「1対」が主流です。
金額は1万5千円が主流という点では本土と同じですが、「1基」と「1対」の違いがあるので花のボリュームが違います。
もちろん供花1基当たり1本の名札が付きます。
本土の場合は「1基」ですから名札も「1本」です。
でも沖縄では「1対」ですから名札は「2本」になります。
そのため1基ずつ名前の違う名札を準備することもよくあります。
例えば4名連名で1対注文する場合、1本の名札に四名分の名前を書き込むことができます。
でもこれでは字が小さくなるので、照明を落としている式場ではあまり目立ちません。
ですから沖縄では4名連名で注文する場合、名札1本につき2名ずつの名前にするのが主流です。
ちなみに沖縄の供花では名札が2本つくので、最大8名までは連名で供花を出すことが出来ます。
この場合は名札1本につき4名ずつ名前を書き込みます。
ただし沖縄の供花は1対1万円から注文できるので、「8名連名で1万5千円×1対」ではなく「4名連名で1万円×2対」にするのが一般的です。
まとめ
地域が変わればお葬式の風習や慣習は変わるといいますが、その意味も沖縄を例に挙げてみると「なるほどな」と思えたはずです。
もちろん今回紹介した違いはあくまでもほんの一部にすぎません。
でもこれだけでも「地域が違えばこれだけの違いがでる」ということは理解できたはずです。
私は沖縄以外の地域でもお葬式の現場を担当してきましたが、本土であっても地域によって様々な違いがありました。
近い地域でも県が違うと風習が違うこともよくありましたし、地域よっては「一般的な常識」が「地域の非常識」になることもありました。
ですからあなたが「お葬式のことがよくわからない」と口に出したとしても、別に恥ずかしいことではないのです。
ただし分からないことも含めて周りと相談しながらお葬式について考えていくということが、今後さらに規模が小さくなる日本のお葬式では大事になってきます。
でも葬儀社に葬儀を依頼するということはこうした地域の風習なども踏まえて葬儀の施工・運営を依頼するわけですから、「恥をかかないようにきちんと教えてよね!」と釘をさしておくくらい位でちょうどよいのですよ。