日本のお葬式で一般的なのは仏式です。
仏式のお葬式となれば、お坊さんへのお布施が必要になります。
ただお布施といってもその内訳には「戒名料」「お車代」「御前代」なども含まれているので、金額も高額ですしお葬式の費用の中でもかなりのウェイトを占めることになります。
ところがこのお布施には領収証がありません。
お葬式の費用の中には相続税の控除対象になるものがありますが、お坊さんへのお布施もその中に含まれます。
しかも金額が高いだけに「なぜ領収証がないの?」と疑問に思う人も多いはずです。
ただしこれにはちゃんとした理由があります。
そこで今回はお葬式のお布施にどうして領収証が出ないのか、その理由をわかりやすく解説!
相続税対策として有効な方法となる対処法も併せて紹介します。
お葬式でのお布施にはなぜ領収証が出ないの!?
お葬式の費用の中でも葬儀社に支払うお金の次に高額なのが、お坊さんへ支払うお布施です。
地域によっても相場(あくまでも目安程度ではあるのですが)は違いますが、平均してみると数十万となります。
もちろんお布施の中には、お通夜や葬儀・告別式などで行う読経料のほかに戒名料なども含まれます。
それぞれを別々に支払うわけではないので、総額でみると「お布施って高い!」というイメージになります。
でもそれだけ高いお金を支払うのですから、領収証を出してくれるのは当然と思いますよね?
ところがそれは間違いです。
どんなに高額なお布施であったとしても、お坊さんから領収証をだしてもらうことはできません。
その真相を知るには「お布施の意味」を理解する必要があります。
・お布施には3種類ある
お布施と一言で言っても、実は3種類あります。
その中でお金を払うお布施のことを「財施」と言います。
ここで注目したいのが財施という言葉に財産の「財」が含まれていることです。
そもそもお坊さんにお金を払うことを「財施」というわけではありません。
食事や衣服などを施すことも「財施」となります。
つまりあなたの財産をお坊さんに寄進することを「財施」というのです。
ですから在家信者がお寺に畑でとれた作物を渡すことも「財施(お布施)」になりますし、托鉢しているお坊さんに食事を施すことも「財施(お布施)」になります。
ただしお葬式においてはお金を準備することが一般的なので、「お坊さんに渡すお布施=お金」というイメージが強いだけなのです。
・お葬式のお布施は「お礼金」
お葬式のお布施に領収証がないのは、「お礼金」という意味があるからです。
お礼金というと「何かをしてもらったことに対するお礼の気持ちを込めて支払うお金」のことを言いますよね?
まさにお葬式のお布施はこれにあたります。
ただ一般的な考え方としては「普通のお葬式をしたいからお坊さんを頼んだだけ」という人の方が多いのが現実です。
ここでいう「普通」は、昔から慣れ親しんでいるお葬式のスタイルという意味です。
規模やお葬式の内容のことではありません。
日本では古くから仏教が伝わっていますので、お葬式となればお坊さんを呼ぶのが定着しています。
でももとをただすと日本は神道の国ですから、あとから日本に伝わってきた仏教よりも神道のお葬式の方が根付いていてもおかしくないはずです。
ただそこには「戸籍の管理」という役割をお寺が肩代わりしていたことが関係します。
戸籍を管理するということは税金の徴収とも関係します。
ですから行政府としては確実に戸籍の管理が出来る方法を見つければ間違いのない税金の徴収が出来ます。
そこで利用したのがお寺の檀家制度です。
庶民を檀家に入れば、葬式の度にお坊さんを呼ばなければいけなくなります。
お寺は檀家の情報を管理する必要がありますから、当然家族構成などはすべて把握しています。
つまり檀家制度を利用すれば、わざわざ行政が戸籍係をもたなくても戸籍の情報・管理が出来るようになります。
もちろん戸籍が管理できるということは税金も確実に徴収できます。
要はこうしたときの政治手法に乗っかる形で日本のお葬式は仏式が定番のスタイルとなったのです。
ただそんな仕組みがあるとは庶民の間で走りませんから、お葬式の慣習として根付くことになります。
こうして一般的なお葬式は仏式のお葬式となっていきます。
ちなみに仏教では「死者は仏の世界に行く」と考えます。
人が仏の世界に行くには仏門に入る必要があります。
これはお葬式のためにお坊さんを頼んだ場合も同じです。
ただし死んでから仏門に入るのですから、死者には仏門に入るために必要な準備が全くありません。
そこでお坊さんは読経を聞かせることで仏の道に入るために最低限必要なことを教えます。
そして仏門に入る儀式を済ませ、俗世を捨てて仏門に入るために戒名(法名)を授けます。
戒名を授けられたのですから、この世(俗世)で使っていた名前は必要ありません。
つまりこれが「俗名を捨てる=仏門に入る」となります。
さすがに亡くなってからお葬式までの間にこれだけのことをお坊さんはしなければいけないのですから、それに対するお礼は必要です。
仏の教えを学ぶための読経に対しては「読経料」という名目でお礼をしなければいけませんし、戒名を授けてもらうことに対しては「戒名料」という名目でお礼をします。
このようにお葬式にお坊さんを呼ぶから依頼料としてお金を渡すのではなく、お坊さんが死者のために施してくれたことに対するお礼としてお金を渡すのが本来のお布施となります。
でも立場を変えればあなただって同じような経験をしているはずです。
例えばお葬式で手伝いをすると、そのことに対して遺族から「心付け」としてお金をいただくことってありますよね?
これはお礼金として渡されるお金ですが、それに対して領収証をあなたは渡すでしょうか?
答えは「NO」なはずです。
別の例を出してみましょう。
旅館や高級レストランなどに行ったとき、接客を担当してくれる仲居さんやウェイターにチップを払うことがあります。
あなたは払ったチップに対して「領収証、もらえますか?」と言いますか?
これも答えは「NO」ですよね。
つまりお坊さんのお葬式のお布施も同じです。
お礼として支払ったお金だから領収証はないのです。
またお布施は仕事の対価として支払うお金ではないので、領収証が出せないのです。
これが高額なのにお布施に領収証がない理由です。
お葬式でお坊さんに支払ったお布施は相続税の控除対象になる
お葬式にかかる費用は、その項目によって相続税の控除となります。
もちろん葬儀費用も相続税の控除対象です。(ただし一部項目は該当しません)
かつて相続税は「お金持ちの税金」というイメージがありました。
ところが相続税に関する法改正は知らない間にどんどん行われています。
かつては基礎控除額が大きかったこともあって、一般家庭が相続税の対象となることはほとんどありませんでした。
ところが基礎控除額はピーク時よりも大幅に下がっています。
それなのにこうした情報は庶民の間ではあまり知られていません。
実際にお葬式が終わって諸手続きを進めているうちに「相続税の対象です」と知らされビックリするというのが現状です。
しかも少子化が進んでいることもあって、法定相続人が少ないことも問題を深刻化させています。
相続人の人数によって基礎控除額の幅は増えるのですが、人数が少なければその分控除額は減ります。
そのため今の相続税は「お金持ちの税金」ではなく「みんなの税金」になっているのです。
ただし冒頭でも触れましたが、お葬式の費用には相続税の控除となるものがあります。
金額が大きければ相続税の対象から外れることもできます。
葬儀社に支払うお金は金額が大きいので最も有効な相続税対策になるのですが、お葬式でお坊さんに支払うお布施も実は控除の対象になるのです。
これはかなり大事なポイントなので覚えておいてくださいね!
お布施の領収証の代わりとして利用できるもの
お布施のように領収証がないお葬式の費用については、メモを残すことで対応できます。
「いつ・誰に・どんな目的で・いくら支払ったのか」を1つのメモ用紙に書き込みます。
これを領収証代わりとして相続税の手続きの際に使用します。
この方法は心付けなどでもできます。
ただし相続税の控除となるのは「お葬式までにかかった費用」です。
そのためお葬式が終わった後に繰り上げ法要の読経をお願いした場合、この時に支払ったお布施は控除になりません。
まとめ
お坊さんに支払うお布施は「お礼金」という意味で支払うので領収証がありません。
ただお葬式にかかった費用は相続税の控除となります。
もちろんお坊さんのお布施もこれに含まれますので、きちんとメモを残しておくということが大事なポイントですよ。