最近は葬儀のセットプランの中に「湯灌(ゆかん)サービス」が含まれている葬儀社が増えています。
でも「湯灌にはどんな意味があって行うのか」「どんなことをするのか」ということはよく知られていません。
そこで今回は「湯灌」についてクローズアップ。
意味や由来、湯灌の流れや業者にお願いせずに家族だけで湯灌をする方法などを紹介していきます。
湯灌とは?
湯灌とは、亡くなった人の体や髪を洗い、死装束を身に着けさせることです。
体を拭いて済ませる場合もありますが、この場合は「清拭(せいしき)」または「簡易湯灌」と呼ばれます。
湯灌がお葬式で行われるようになった由来は?
湯灌が行われるようになったのは、中国の葬送文化に由来があるといわれています。
中国の南朝時代に書かれた歴史書である「南史」にも湯灌について記されているため、この頃には亡くなった人の体を洗い死装束を身に着けさせる風習があったことが分かります。
仏教では、出家する際に体を洗い髭や髪をそり新しい浄衣または法服を身に着けさせることを「湯灌」といいます。
日本のお葬式の文化は仏教とも深く関係しているため、亡くなった後に宗教儀式として湯灌を行うようになったともいわれています。
ただし亡くなった人の体を洗うことに抵抗感がある人も多かったため、かつてのお寺では死者のための湯灌場が設けられていることもありました。
地域によっては仏教の作法とは別に「死者の身支度」として親族の女性たちの手によって体を洗う風習がありました。
この場合は「湯灌」という言葉を使わないことが一般的です。
湯灌はどんなことをするのか?
現在の湯灌は宗教的な意味としてではなく「最後の身支度」として湯灌を行うことが一般的です。
そのため自宅や式場などに移動式の浴槽を持ち込み、身体と髪を洗います。
洗体・洗髪が終わったら、身体を拭き死装束を着つけます。
末期の水を行う
「末期の水」は仏教の教えに基づいています。
末期の水は「お釈迦様が入滅される際に水を所望された」という話が由来にあるといわれています。
本来であれば亡くなった直後に行うものなのですが、病院で行うことは難しいため最近では「遺体を安置した後」または「湯灌」の中で行います。
体の処置
まずは遺体の腐敗状況を確認します。
そのうえで体や顔などに出血などが見られる場合は止血の処置をします。
また背中などに褥瘡が出来ている場合や水疱が出来ている場合も処置をします。
体液が漏れている場合はその処置も行います。
逆さ水で体を清める
真水に熱湯を入れて適温のお湯を作ったものを「逆さ水」といいます。
逆さ水を使って体を清めますが、この場合も逆さの作法に従い足元から胸元方向に向かって水をかけます。
逆さ水は柄杓ですくいますが、この時も右手ではなく左手でつかみます。
また「戻す」ということが禁じられているので、柄杓の水は胸元で流しきります。
洗体・洗髪
専用の浴槽で体と髪を洗います。
この際に肌を見せないようにバスタオルなどで体を覆うため、洗体・洗髪の様子を見学することもできます。
死装束を身に着ける
基本的には仏教式の死装束を着つけます。家族の希望でスーツや着物を着つけることもできます。
この時も肌を見せることはありませんので、着せ替えの様子を見学することが出来ます。
死に化粧は基本的に男女ともに行う
化粧といえば女性が行うものですが、現在の湯灌では男女ともに死に化粧を行うのが一般的です。
もちろん男性の化粧は女性のように「身だしなみ」という意味では行いません。
治療によってできてしまった傷を隠したり、血色を良く見せるために行います。
整髪を行う
洗髪が終わった後は、ドライヤーを使って髪を乾かします。
髪が乾いたら椿油を使って艶を出し、ヘアスプレーなどを使って整髪します。
希望がある場合は髪を染めるサービスをする湯灌業者もあります
爪を切る
手と足の爪を切りそろえます。
湯灌業者によってはサービスでマニキュアを付けるケースもあります。
湯灌にもメリット、デメリットがある
湯灌を行うメリット
病院でも「エンゼルケア」の中で体をふいたり病衣から浴衣に着せ替えることはしますが、亡くなった人の体は息を引き取った瞬間から腐敗が始まります。
ですから病院で処置をしてもらっても納棺をするまでの間に腐敗が進んでしまうこともあります。
遺体の腐敗が進むと皮膚の変色や腐敗臭がおこります。
また体液が漏れたり身体が膨張して皮膚が破れてしまうこともあります。
こうした状態にならないように処置したうえで入浴させ、ドライアイスや納棺技術などで腐敗のスピードをできるだけ抑えるようにします。
つまり「キレイな状態のままで送ることが出来る」ということが湯灌のメリットといえます。
また事故や自殺などによって体や顔に傷などが出来た場合は、特殊処置によって顔のキズや変色などを復元させることもあります。
特に事故や自殺などのような突然死の場合は予期せぬ死ですから、その事実を家族が受け入れるためにも故人との最後の対面はとても大事なことです。
いかなる状況であっても最後に顔を見て別れることが出来るということは、湯灌を利用するメリットといえるでしょう。
湯灌を行うデメリット
最近では葬儀プランに湯灌サービスが含まれている葬儀社が増えていますが、基本的には湯灌はオプションサービスです。
湯灌にも「浴槽を使って入浴させる湯灌」と「身体を拭くだけの湯灌」があり、それぞれ料金が異なります。
自宅または指定の式場で浴槽を持ち込んで行う湯灌の場合は、10万円前後が費用の相場です。
体をふいて着せ替えを行う場合は、5万円前後が費用の相場です。
基本的に湯灌が終わると納棺となるので、料金の中には納棺代も含まれます。
セットプランになっている場合は良いのですが、湯灌がオプションサービスとなっている場合はその費用が追加されます。
しかも一般的な湯灌の場合は10万円前後が相場になるため、費用の高さがデメリットといえます。
湯灌を家族で行う方法
家族で湯灌をする場合は、亡くなった人の体の負担を最小限に防ぐためにも濡れたタオルで体全体を拭く「簡易湯灌」がおすすめです。
逆さ水を作る
濡れタオルを作る前に、まずは逆さ水を作りましょう。
洗面器やたらいなどに水を入れます。
そのあとお湯を継ぎ足していき適温のぬるま湯を作ります。
足→体→顔の順に拭く
逆さ水でタオルを濡らしたら、足元から頭の方向に向かって順に拭いていきます。
背中側をふくときは出来るだけ顔を動かさないようにして持ち上げてからふきます。
皮膚の弱い部分は優しく拭く
皮膚の弱くなっている部分は、少し力を入れただけで皮膚が破けてしまうことがあります。
その場合は軽くタオルを押し当てるようにして拭いてあげましょう。
着つけ
着付ける時も「下から上方向」が基本です。
整髪するときに散髪をしてもかまわない
長期にわたる入院生活では散発が出来るに髪が伸びてしまうこともあります。
もしも散髪するのであれば、整髪をする時に行うのがおすすめです。
まとめ
湯灌の由来には宗教儀式が関係していますが、今の時代の湯灌では宗教儀式としての意味よりも「最後のお風呂」という意味で利用する人が多いです。
お葬式には様々なサービスがありますが、亡くなった人に直接できるサービスは数が限られています。
そのうちの一つが湯灌です。
ただし湯灌は「お葬式をする上で必ずやらなければいけないこと」ではありません。
メリットもありますがデメリットもあります。
ですから利用をする場合にはその両方をきちんと理解してから利用するようにしてくださいね。