終活を進めていると、これまで築いてきた財産をどのようにして相続させるかについて考えるタイミングがやってきます。
でも最近の相続は「争続」と書かれることもあるほど何かとトラブルが起きやすいものです。
そんなトラブルを避けるために有効なのが「遺言書」です。
ただ遺言書といわれると「作るのが難しいのでは?」というイメージもあるのでは?
確かに遺言書づくりにはルールがありますが、遺言書がないと思った通りの相続が出来ない可能性もあります。
「なぜ遺言書が必要なのか?」その理由を踏まえて遺言書を作るときのポイントをわかりやすく解説します。
遺言書は遺産相続のトラブルに効果がある!
内閣府が発表した平成29年版高齢社会白書によると2025年には65歳以上の5人に1人、さらに2060年には65歳以上の3人に1人が認知症患者となることが推定されています。
つまり今の時代、「65歳以上になったら誰もが認知症になる可能性がある」ということなのです。
認知症の症状には様々なものがあります。
ただ症状には様々なものがあり、傍目ではどのような症状があるのかわかりにくいです。
そして認知症の症状が遺産相続に問題となるケースがあります。
認知症になるとできなくなることが増えてくる
アルツハイマー型の認知症を例に挙げてみましょう。
アルツハイマー型認知症の場合、「症状の程度」と「時間の経過」によって出来ることが減り、出来ないことが増えてきます。
まずアルツハイマー型認知症は「進行性の病」という点が大きな特徴にあります。
早期発見によって治療が開始されたとしても、少しずつ症状は進行していきます。
また症状も「中核症状」と「周辺症状」の2つがあり、その症状の程度も時間の経過とともに徐々に進行していきます。
★軽度レベルでできなくなること
「買い物をすること」「家計を管理すること」「物事を段取りすること」が難しくなってきます。
★中度レベルでできなくなること
日常生活に介助が必要になってきます。
「自分で洋服を選ぶこと」「自分で服を着替えること」が難しくなります。
また日常生活に関する行動を起こすにも、介助者の説得が必要になるシーンが増えます。
★高度レベルでできなくなること
「自分で歩く能力」「笑う能力」「言語機能」などが低下します。
トイレや入浴、食事、着替えなど日常生活のすべてに介助が必要になります。
認知症になると署名することも難しい
認知症になると少しずつ症状が進行します。
ただ初期段階では患者本人の心の葛藤も大きいので、症状を隠す行動も見られます。
しかも日常生活のちょっとしたこともできなくなっていきます。
そのため「自分の名前を書く」という簡単な動作も難しくなります。
遺産の相続には2つの方法がある
親の遺産を相続する方法には「法定相続分に従って相続する」と「相続人同士で協議し相続分を決める」の2つがあります。
法定相続分で相続する場合は、民法上で決められた相続のルールに従って相続分を決めます。
ただ相続人同士で話し合い相続分を決めるということもできます。
この場合、全員の合意があれば民法上のルールに従わなくても問題はありません。
相続人に認知症患者がいる場合、相続が面倒になる
相続人同士で話し合いをした結果相続分を決めた場合、相続の手続きの際に相続人本人の署名が必要になります。
ただ認知症の症状が進んでくると、自分で署名をすることが出来なくなります。
こうなると相続人同士の話し合いで相続分が決まったとしても、遺産相続の手続きがうまく進まなくなってしまいます。
相続人が認知症になったとしても相続そのものに問題はないのですが、手続きをスムーズに進めることが難しくなる点は考えておかなければいけないでしょう。
家族の思い通りの相続をするためには遺言書が有効
これからの時代、だれもが認知症になる可能性を覚悟しておかなければいけません。
だからこそ家族の希望通りに相続を進めるためにも、きちんと遺言書を作っておくということが大事になります。
遺産相続には2通りの方法があるといいましたが、これは「遺言書がない場合」の方法です。
遺言書がある場合は遺言書が優先されるので、遺言書があれば相続人が認知症になったとしても希望通りに遺産相続させることが出来ます。
公正証書遺言の作り方
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言は、亡くなった後家庭裁判所で検認手続きをすることなく遺言内容を実行に移すことが出来ます。
相続人が認知症になったとしても遺言通りに相続が出来るので、確実に希望通りの遺産相続が出来ます。
公正証書遺言のデメリット
公正証書遺言は、遺言者が自分で遺言書を書くことはできません。
また書き方にもルールがあり、遺言書を書く場所も基本的に公証役場となっているので時間と手間がかかります。
また遺言書を作成するために費用が掛かります。費用は財産の内容によっても異なりますが、平均すると5~10万円程度かかります。
公正証書遺言の作り方
まずはどんな内容の遺言にしたいか、原案となるものを作ります。
実際の遺言書を書くのは公証人となるので、この時の原案はメモ書き程度で問題ありません。
原案が出来たら、実際に遺言書作成を証明する証人を2名以上決めます。
証人が決まったら証人とともに公証役場に行きます。
公証役場では遺言者が原案を見ながら口頭で公証人に伝え、その内容を公証人が紙面に書きます。
遺言内容をすべて紙面に書き終えたら、遺言内容を遺言者と証人に読み聞かせます。
紙面に書いた遺言内容に間違いがないことを遺言者と証人が確認したら、遺言者、証人、公証人が署名・押印します。
これで公正証書遺言は完成です。
原本は公証役場が保管し、正本は遺言者が保管します。
自筆証書遺言の作り方
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書を作ることが出来ます。
遺言書を書く場所は自由ですし、遺言書を書く時に証人をつける必要もありません。
遺言書を作るのに費用はいりませんし、保管をする場所も遺言者本人が保管すればよいので誰でも簡単に作ることが出来る点がメリットにあります。
自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言は、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所で検認をする必要があります。
検認されてから遺言執行となるので、スピーディーに遺産相続が出来ないという点がデメリットにあります。
また自筆証書遺言は、直筆のみしか認められません。
パソコンで作られた遺言書は無効ですし、家庭裁判所で遺言書として無効と判断された場合は効力を持ちません。
確実に遺言内容を実行したいのであればベストな方法とは言いきれません。
自筆証書遺言の作り方
筆記用具や遺言用紙の指定はありませんが、必ず遺言者の自筆で書く必要があります。
遺言書の基本構成は決まっていますので、基本構成に沿って遺言書を作成していきます。
表題には必ず「遺言書」と書き、前文(遺言書を書くことの宣言文)を書きます。
その後「建物・土地に関する相続人の指定」「預貯金等に関する相続人の指定」「その他財産に対する相続人の指定」を書きます。
子供の認知など相続人に伝えるべき内容がある場合は、「その他諸条件の指定」として書き入れます。
最後に遺言を実行する責任者を指定したら、遺言書を作成した日付を書き入れ、署名・押印をします。
これで自筆証書遺言は完成です。
まとめ
遺言書を作ることによって、遺産を相続する家族が認知症になったとしても確実に希望通りの内容で遺言を実行させることが出来ます。
これからの時代はだれもが認知症患者となる可能性があります。
また残る家族が認知症になる可能性もあります。大事な財産を確実に家族へ相続させるためにも、遺言書を作って意思表示をすることは大事なことなのです。