葬儀社のスタッフというと「葬儀のプロ」と思うでしょうが、実際には葬儀の一部分を専門に担当する「専門スタッフ」とすべての業務を担当する「トータルプロデューススタッフ」がいます。
大手葬儀社の場合、様々な専門スタッフを使うことによって一つの葬儀を施工することが一般的です。
でも小規模な葬儀社や規模の小さな葬儀の場合、葬儀担当者が施工のすべてを担当するのが一般的です。
私は葬儀業界に入ったばかりの頃は「湯灌士」という葬儀の一部を担当する専門スタッフとして働いていました。
その後あることがきっかけで葬儀のすべてを施工・担当するトータルプロデュースとしての仕事につきました。
この経験によってそれぞれのメリット・デメリットが見えてきました。
そこで今回はあまり知られていない葬儀スタッフの仕事について紹介してみることにします。
お葬式を施工するには様々な専門技術が必要
1つのお葬式を施工するにしても、実は様々な専門技術が必要なのです。
昔は葬儀社の数も少なく葬儀社の規模もそれほど大きくなかったので、すべての専門技術を身に着けることが「一人前の葬儀スタッフ」といわれていました。
でも今は葬儀の仕事も分業化が主流です。
時間をかけて1人の葬儀スタッフを育てるよりも、分業化し1人のスタッフが担当する業務の範囲を限定することによって短時間に葬儀スタッフを育てる方が効率的だという考え方が主流です。
なにしろ1つのお葬式といっても、やらなければいけない業務はこれだけあるのです。
・搬送業務
遺体の搬送業務です。
亡くなった場所から安置先まで搬送を行います。
かつては安置先で行う担当者が遺体を搬送する車を運転していましたが、搬送のための車は専用車になるので車の維持・管理などの面から搬送専門業者を利用するのが一般的です。
・受注業務
お葬式の規模や費用の打ち合わせをします。
営業技術だけでなく葬儀の流れや提案力も必要になるので、一通り葬儀の現場を経験した人が担当することが多いです。
・設営業務
祭壇の設営や庭飾りなどを担当します。
祭壇を設営する時にはその場所が聖なる場所であることを表すために白い幕を張ります。
そのほかにも一枚の長い反物状の幕を使った装飾も行います。
幕装飾には様々な手法があるので、経験と技術が問われます。
・湯灌・納棺業務
遺体の処理と洗体・洗髪・身支度を行い、納棺まで行います。
病気の状態や安置場所の環境などによっても遺体は変化していくので、出棺の当日まで遺体の状態を保つことも業務になります。
また顔の表情を戻したり損傷の激しい遺体の修復なども行います。
・生花業務
最近では宗教・宗派を問わず花祭壇が主流になっています。
花を使って祭壇全体を装飾するので、専門の技術が必要になります。
花祭壇の場合は全体が立体的に見えるようにする必要があるので、一般的な花のアレンジメント技術とは全く違う専門技術が必要になります。
・式場誘導業務
通夜式や葬儀式会場で参列者や弔問客の誘導を行います。
セレモニー会場での誘導なので、立ちかた・歩き方・姿勢・お辞儀の角度などは細かく決められています。
接遇スキルが求められるので、ホテル業などからの転職者が多く活躍しています。
・司会業務
式の進行は秒単位で進められます。
しかも式場誘導員や宗教者の動きも司会の進行次第で変化するので、司会のテクニックだけでなく全体の様子を細かく観察する力と判断力、さらに正確性が求められます。
・湯茶接待業務
通夜ぶるまいや火葬場での休憩時に参列者や弔問客の湯茶接待を担当します。
主に女性スタッフが担当しますが、業務時間は長くても数時間なのでパートやアルバイトで対応するケースも多いです。
・集金業務
葬儀費用は後日精算が基本です。
葬儀の施工にかかった費用をすべて集金するだけでなく、葬儀後のアフターフォローも担当します。
葬儀の現場で専門スタッフとして働くことのメリット・デメリット
・メリット
葬儀の一部分に特化した専門技術が短時間で身につくのは最大のメリットといえます。
特に特殊な技術が必要になる専門分野の場合、技術を身につけるだけでも1年以上かかります。
ですから集中して技術を身につけたい人には向いています。
また葬儀業務の中でも特に特殊な技術の場合は、業界内で転職する場合に有利になることもあります。
・デメリット
お葬式の一部分にすぎないため、「葬儀全体を知る」ということはできません。
また細かく分業化されている場合、担当している業務が葬儀全体にどのような影響を与えるのかイメージできないスタッフも多いです。
転職する場合も特殊な技術が必要な専門スタッフではない場合、「経験者」とみなされないこともあります。
・利用する客としての注意点
業務をたくさんのスタッフが分業している場合、顧客の情報が関係するスタッフの間で共有されていないことがあります。
基本的に1つの葬儀に対して専任の担当者が付くのですが、担当者以外のスタッフと打ち合わせをするとそのことが担当者に伝わっていないということもあります。
ですからたくさんのスタッフがかかわっている場合は、あなたのお葬式を担当する人の名前と顔をしっかりと覚えておくことが大切です。
特にお金に関わる件については必ず担当者と相談することがトラブル回避のポイントです。
葬儀の現場でトータルプロデュースとして働くことのメリット・デメリット
・メリット
お葬式の施工そのものをすべて担当するので、一連のお葬式の流れがわかります。
そのため現場での経験が長いほど転職する時は有利です。
ただし大手葬儀社では業務の分業化が定着化しているので、基本的に中小規模の葬儀社への転職がメインになります。
またすべての業務内容がわかるので、葬儀社の跡取りや将来独立開業を考えているのであれば葬儀のトータルプロデューサーを目指すのが一般的です。
・デメリット
葬儀に関する業務が幅広いので、一人前として認められるまでに長い時間がかかります。
特に技術と経験が必要な分野に関しては、業務時間以外にも技術の練習を積み重ねる努力は必要不可欠です。
その点でいえば「早くプロとして現場に立ちたい」という人には向きません。
またすべての業務において担当するのですから、一人でこなさなければいけない仕事の量は専門スタッフよりもはるかに多いです。
またミスやクレームは売り上げに直結します。
ですから無事に集金が終わるまでのプレッシャーは大きいです。
ちなみに一人ですべてを担当するということは、夜間の依頼にもすぐに対応しなければいけません。
そのため夜勤や当直業務は避けられません。
・利用する客としての注意点
お葬式の担当者がすべての業務を担当するという点では安心ですが、評価は担当者の技術と経験で大きく変わります。
良い担当者に当たればよいのですが、対応の悪い担当者の場合は打ち合わせからお葬式終了まですべてに不満を感じるというケースもあります。
葬儀社を選ぶのは事前にできますが、担当者が誰になるのかについては事前に決められません。
もしも周囲の友人から「この葬儀社を利用してよかったわよ」と紹介されたのであれば、その時の担当者の名前も一緒に教えてもらうと間違いないです。
担当者を指名するときも「過去に○○さんに担当してもらった友人からの紹介」と一言いえば、葬儀社サイドによほどの事情がない限り希望は叶います。
まとめ
葬儀社のスタッフといっても、すべてにおいて現場を仕切ることが出来るスタッフは少なくなっています。
もちろん業務が分業化されている葬儀社の場合も、評判の良い専門スタッフ(専門業者)を数多く抱えているケースも多いので一概に何が良いかは言えません。
ただし「スタッフの対応の良さ」で葬儀社を選ぶのであれば、葬儀社によって「分業して葬儀を施工するタイプ」と「1人担当者が1つのお葬式をすべて担当するタイプ」があるのでどちらのタイプがあなたの理想に近いのかがポイントになります。
また葬儀業界に転職するときも、この2つの違いがあなたの目指す葬儀サービスの目標と関係してきます。
もちろんどんな葬儀スタッフになりたいのかによって変わってきますから、まずはその点についてはっきりさせておくことが大事です。