お葬式のお金の中には「支払うお金」のほかに「支給してもらうことが出来るお金」があります。
これを「葬祭扶助」といいます。
葬祭扶助には様々な種類がありますが、生活保護を受けている場合は一般的な葬祭扶助とは異なります。
そこで今回は「生活保護を受けている人」に対して支給される葬祭扶助の内容と申請方法、生活保護の葬祭扶助内で行うお葬式の内容について分かりやすく解説します。
生活保護を受けている人はお葬式の自己負担を0円に出来る!?
お葬式には様々な費用が掛かります。
どのようなお葬式にするのかによって内容や費用も変わってきますが、その金額の単位は数十万単位が一般的。
もちろんお葬式をするとなれば葬儀社に支払うお金以外にも火葬料金や納骨にかかるお金なども必要になります。
そのため規模の小さなお葬式をしたとしても、お葬式全体にかかる費用として最低でも50万円前後は必要になります。
でも生活保護を受けていると、さすがにこれだけの金額を準備するのは無理ですよね?
かといって人が亡くなればお葬式をしないわけにはいきません。
いくらお金がなかったとしてもそのままの状態で遺体を放置すれば、立派な「犯罪」です。
・遺体をそのまま放置しただけでも「死体遺棄罪」で逮捕される場合がある
「死体遺棄罪」というと、「人を殺した後、遺体をどこかに移動させてそのまま放置する」というイメージがありますよね?
確かにこのようなケースが最もオーソドックスな死体遺棄です。
でも病死・自然死であっても遺体をそのまま放置していることによって「死体遺棄罪」になることもあります。
死体の遺棄に関する法律には刑法190条があります。
ここには「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。」と書かれています。
これだけだと「お金がなくて葬儀社にお葬式を依頼することが出来なかったから遺体をそのままにした」という場合も犯罪になるのかという点が気になります。
ただ過去の判例では、「葬祭する責務を有する者が葬祭の意思なく死体を放置して立ち去る場合にも成立する」とあります。
つまり「お葬式をする義務があるのにもかかわらず、お葬式をする意思がなく遺体を放置していると遺体遺棄罪になる」というわけです。
ですからお葬式を出すお金がなかったとしても人が亡くなってその人のお葬式を行う責任があるのであれば、お葬式を行わなければいけないということなのです。
・生活保護を受けていれば生活費以外にも支給されるお金がある
生活保護は「生活保護法」によって様々なお金が支給されます。
一般的によく知られているのは【生活扶助(日常生活に必要となるお金の支給)】【住宅扶助(住宅にかかるお金の支給)】【医療扶助(病院での診察や薬代等にかかるお金の支給)】です。
確かにこの3つは日常生活をする上ではどうしても必要になるお金です。
でも人としてこの世に生まれれば必ずいつかは死を迎えます。
遺体をそのまま放置することはできませんから、遺体の処理も含めて必ずお葬式はしなければいけませ。
そのため生活保護法では【葬祭扶助(お葬式にかかるお金の支給)】もあります。
しかも生活保護の葬祭扶助の支給基準額内でお葬式を済ませるのであれば、お葬式費用のためにわざわざ借金をしなくても自己負担0円でお葬式をすることが出来るのです。
・生活保護の葬祭扶助には3項目ある
生活保護を受けている人が支給してもらえるお金には「基準額(一般的に葬儀社に支払うお金)」「火葬費(火葬場の使用料)」「運搬費(基準額を超えた場合に適用されるお金)」の3つがあります。
最も金額が大きく重要になるのが「基準額」です。
基準額に当てはまる費用といっても、詳しい内容は各市区町村によって少し違いがあります。
ただ大まかに説明すると「葬儀屋さんに支払うお金」と考えると大体イメージに合います。
基準額は地域(保護法によってあらかじめ1~3級地が分けられています)と年齢によって支給されるお金の額が変わります。
(年齢は【大人】【小人】の2つに分かれます)
1級地・2級地の場合、大人なら20万1000円を上限に支給されます。
3級地の場合は、大人17万5900円が上限です。
あくまでもこの金額は「支給される金額の上限」ですから、満額支給されないケースもあります。
ただし支給の上限額は全国一律になっているので、「大都市だと満額もらえる」「田舎だと少ししかもらえない」ということではありません。
あくまでも生活保護を受けている人がどの級地に住んでいるかによって上限額は変わります。
火葬費は「級地」と「年齢(大人または小人)」によって変わります。
一応金額は決められていますが、火葬にかかる費用は市町村条例によって決められているので住んでいる自治体によって金額が変わります。
ですから葬祭扶助の「火葬費」として金額は決められていますが、現実的には「火葬料」として火葬場に支払った金額が支給されます。
ちなみに運搬費は、葬儀社に支払うお金が「限度額」を超えた場合に支給されます。
ただしここで対象となるのは「運搬にかかる費用」です。
遺体を移動する(亡くなった場所から安置先へ移動する/安置先から火葬場まで移動する)場合、専用の車が必要になります。
ただし移動距離が長い場合、移動にかかる運搬費が通常料金よりも高くなる場合があります。
つまりここでの運搬費とは。「移動距離が長く運搬費が高額になったことでお葬式の費用が基準額よりも高くなった場合」が対象になります。
ですから生活保護の葬祭費として支給されるものは、原則として「基準額」と「火葬費」の2つと考えます。
・基準額の範囲内でお葬式をすれば自己負担0円
生活保護法で定められている葬祭扶助で支給されるのは、火葬をするために必要となる「火葬費」と「葬儀社にお葬式を依頼するために必要となるお金(支給額の上限あり)」の2つです。
火葬費は実質全額支給ですから、きちんと申請をすれば自己負担0円となります。
同じく葬儀社に支払うお金も、基準額の範囲内であれば自己負担0円となります。
もちろん支給してもらうためには、他の扶助制度と同じようにきちんと申請をすることが必要です。
その代り正しく申請して受理されれば、お葬式のために借金をしなくても自己負担0円で行うことが出来るのです。
生活保護を受けている人が葬祭扶助を受ける方法
生活保護を受けている人が、生活保護の「葬祭扶助(葬儀社に支払うお葬式のお金)」を支給してもらうためには、葬祭扶助の申請をきちんと行う必要があります。
・申請する場所
基本的には管轄している福祉事務所になります。
市町村役場の福祉課、または生活保護課が窓口となっている場合もあります。
・申請のタイミング
申請をするには死亡診断書のコピーが必要になります。
ですから死亡の確認後、死亡診断書が発行された時点から出来るだけ早いタイミングで申請を行います。
もちろん亡くなった直後は様々な手続きや準備などがあります。
そのため担当のケースワーカーまたは民生委員に連絡することでも対応できます。
ただしお葬式を行う前に申請をする必要があります。
「お葬式を済ませてしまった」「すでに葬儀代を葬儀社に支払った」という場合は、申請してもお金が支給されないこともあります。
特に「すでに葬儀社への支払いを済ませている」というケースでは、申請が認められないことが多いです。
これは「葬儀費用の支払い能力がある」とみなされてしまうからです。
・申請に必要な物
葬祭扶助の申請に必要なのは、【死亡診断書のコピー】【申請者の印鑑(認印でも可)】【葬儀社が発行する請求書】です。
火葬費の請求をする場合は、火葬場が発行した領収証も必要です。
・申請者
原則として「喪主」です。
葬儀社・民生委員が代理で申請することもできます。
この場合は「申請が出来ない理由がある(その理由が認められた場合)」です。
葬祭扶助でのお葬式は一般的にイメージしているお葬式ではない
生活保護を受けている人が葬祭扶助の支給額で行うお葬式は、「一般的なお葬式のイメージ」とは全く違います。
ものすごくわかりやすく言えば、「遺体を火葬するための費用」です。
葬祭扶助として支給が認められる項目は、亡くなった人が住民登録している市町村役場によってやや違いがあります。
確実に認められるのは、「棺」「骨壺」「遺体の搬送にかかる費用」です。
お葬式に必要は「祭壇」「位牌」「遺影」については、自治体によって解釈が分かれます。
もちろん「豪華なお花で飾られた祭壇」は認められませんが、納骨まで遺骨を安置するための簡易的な祭壇程度であれば認められるケースが一般的です。
また遺影写真や位牌についても、最近では「葬祭扶助」として認めているケースが増えています。
ただし認めていないケースもありますので、葬儀社の請求書の中に認めていない項目がある場合は基準額の上限から減額されます。
・お坊さんを呼ぶことはできない
お坊さんを呼ぶということは「お布施」が必要になります。
しかもお坊さんのお布施は、お葬式当日に現金で支払うものです。
ちなみにこの金額については、生活保護の葬祭扶助として認められません。
ですから負担金0円で葬儀をしようと思うならば、原則としてお坊さんを呼ぶことはできません。
・生活保護のお葬式は「火葬をするだけのお葬式」
生活保護で葬祭扶助として支給されるのは、「火葬をするまでにかかる費用」と考えるのが最もわかりやすいです。
つまり「お坊さんを呼ぶ」「通夜ぶるまいをする」「返礼品を準備する」ということはできません。
何しろ生活保護の葬祭扶助では「火葬をするまでに必要な備品一式」「遺体(棺)を移動するための運送費」「その他火葬をするまでに必要となる備品一式」しか認められません。
だから「人が集まってお別れをする」「祭壇に花を飾る」などは出来ません。
あくまでも「火葬をするのみ」です。
・原則として自己資金を追加してお葬式を行うことはできない
生活保護の葬祭扶助を受けるのであれば、原則として基準額の範囲内でお葬式を行うこととなっています。
もしも自己負担をして生活保護の基準より充実したお葬式をしたとなれば、支給する側としては「お葬式の費用を支給しなくても自分で何とかお金を準備することが出来るじゃないか!」と考えてもおかしくないですよね?
ですからお葬式費用の一部を自己負担するのであれば、「支給されるお金を使わずに、自己負担できるお金の範囲でお葬式を済ませてください」となります。
そのため申請をしても認められないことが多いです。
まとめ
生活保護を受けていても、きちんと申請をし基準額の範囲内でお葬式を済ませるのであれば自己負担0円でお葬式をすることが出来ます。
もちろん一般的に考えられるお葬式のイメージとは違いますが、少なくとも「お金がないからお葬式を出すことが出来ない」ということは避けられます。
ただしお葬式費用の支給をきちんと受けるには、決められた期限内に申請をすることが大切です。
特に「自己負担0円のお葬式」を考えているのであれば、担当のケースワーカーとも相談の上きちんと申請することがポイントですよ。