宗教上の理由や家族の事情などから、遺骨の引き取りを拒否したいと考える人もいます。
でも日本では古くから「遺骨に故人の魂が宿る」という考えが根付いているため、あえて遺骨の形を残した状態で火葬をします。
実はこれは世界的にみると日本だけに見られることです。
海外の火葬場では遺骨に対する宗教上の考えはありません。
そのため火葬炉の火力を一気に高め、短時間でパウダー状になるまで火葬します。
これに対して日本は「形を残す」という独特の文化があるため、時間をかけて遺骨の形をできるだけ残すように特殊な技術をもって火葬をしています。
このことによって遺骨は、遺族の手によって収骨されるのが慣習となりました。
収骨の儀式そのものは故人の姿や思い出を連想させることなので、立ち会う遺族にとって心の負担が大きいです。
ところがその思い出を連想させることが嫌だという場合には、遺骨の引き取りを拒否したいという人もいるはずです。
ではどのような事情があるにしても、遺骨の引き取りを拒否するということはできるのでしょうか?
遺骨の引き取りを拒否することはできる
火葬をした遺骨は、通常であればあらかじめ準備された骨壺に家族や立会人によって納められ、引き取られていきます。
もちろん身元不明の遺体や身寄りのない場合は、行政のスタッフが遺骨を引き取りしかるべき方法で保管または埋葬をします。
では家族がいるのに遺骨の引き取りを拒否するということは、実際にできるのでしょうか?
また遺骨の引き取りを拒否したことがある人には、どのような事情があるのでしょうか?
・火葬場で遺骨の引き取りを拒否することはできる
家族がいる場合、遺体の引き取りを拒否したとしても火葬に至るまでにかかった費用などは家族に請求されます。
様々な事情があるにしても、多くの人は遺体を引き取り何らかの方法で火葬まで済ませます。
でも火葬された遺骨を引き取れば、今度はその遺骨の処分が関係してきます。
遺骨の扱い方にはちゃんと法律があります。
定められた場所以外で埋葬することは法律違反になります。
またむやみに海などに投機することも、法律違反になります。
そのため家族の事情によっては火葬場での遺骨の引き取りを拒否するということもできます。
どんな人が遺骨の引き取りを拒否しているの?
遺骨の引き取りを拒否した理由は、人によって様々です。
親から受けた暴力などが原因で引き取りを拒否する子ども
最もよく耳にするのが、「家族とはいえ絶縁状態だった」という場合です。
このケースの多くは子供が葬儀の執行人となっています。
特に親からの虐待やネグレクト、日常的な暴力などで心に深い傷を負ってしまった子供が多く、学校卒業と同時に家を飛び出しその後一人で独立して生活をしてきたという人も少なくありません。
「遺体の対面」については子供としての最後の務めとして立ち会う人が多いのですが、遺骨を引き取るということに関しては拒否反応を示す人も少なくありません。
・遺骨を埋葬する費用までは出したくない
これも事情を抱えた家族がよく口にする理由です。
火葬をするまでは故人と縁があったものの義務として立ち会うが、遺骨の引き取りまではやりたくないというわけです。
・納骨する費用がもったいない
親族一同の墓がある場合はその墓に納骨することもできますが、事情を抱えている場合は同じ墓に納骨することに不快感を持っている人も多いです。
だからといって合祀墓や永代供養墓を依頼すれば、その分費用も掛かってきます。
中には、「火葬をするまでの費用は仕方がないとしても、納骨に関する費用については一切出したくない」という人もいます。
・宗教上の理由
人の死と宗教は密接な関係があります。
死後の世界というのは、生きている人にとっては未知の世界です。
経験した人もいませんし、経験者の話を聞くこともできません。
ですからそのことに不安を感じる人は、心の平和を求めて宗教に救いを求めます。
もちろん宗教も、人の心を救うことが本来の意味にあります。
ですから死の解釈も宗教によって様々です。その中には火葬後の遺骨に執着しないという考えの宗教もあります。
このような宗教の信者の場合は、お葬式までは通常通り行いますが、火葬後の遺骨は収骨をしません。
遺骨を引き取らない理由も「宗教上の理由」と明確です。
遺骨を引き取らないという場合にはどのような手続きがあるの?
遺骨の引き取りを拒否する場合は、火葬場にあらかじめ申請書類を提出する必要があります。
死亡診断書の申請者の署名と捺印が必要ですが、申請が受理されれば遺骨は火葬場で処理されます。
ただし全国どこの火葬場でも同じような対応をしているとは限りません。
自治体によっては収骨拒否を認めていない地域もありますし、民営の火葬場の場合の運営方針は民間企業にゆだねられています。
ですからどうしても引き取りたくないのであれば、利用する予定の火葬場が引き取り拒否を受理してくれるかどうかを確認する必要があります。
遺骨の引き取りから納骨まで代行してくれる葬儀社もある
事情がある家族の場合、一般的なイメージの中にあるお葬式とは違い火葬をすることだけを目的とした「直葬」を選ぶことが多いです。
直葬というのは、お通夜・葬儀・告別式などのセレモニーは行わず、安置場所から直接火葬場に直行し、火葬を行って終わらせるという最もシンプルなお葬式です。
このような直葬を選択する家族の多くは、通常のお葬式をすることが出来ない深刻な事情を抱えています。
そのため火葬場でのセレモニーも「立ち合いあり」と「立ち合いなし」が選べます。
さらに火葬後の遺骨についても、「家族が収骨し引き取る」と「葬儀社が収骨し合祀墓へ納骨する」に分かれます。
後者の場合は、葬儀社が提携している寺などが主な合祀先となります。
立ち合いは全て葬儀スタッフが行うため、立ち合いをしなくても納骨まですべて終わらせることが出来ます。
散骨すればお金がかからないというのは間違い
「遺骨になってしまったのなら、海にまいて散骨すればお墓にかかる費用もいらないのでは?」と思う人もいるかもしれません。
でもこれは大きな間違いです。
そもそも現時点で散骨に関する法律がないためグレーゾーンが多い散骨ですが、あくまでも「常識の範囲内で行う」ということが求められています。
ですから遺骨をそのまま海にまくということは、これに反します。
また「自宅の庭に埋めればよい」と思うかもしれませんが、これも間違いです。
現在の日本の法律で遺骨を埋葬することが出来るのは、法律で認められている墓地に限られています。
ですから私有地だとしてもそこが墓地として認められていなければ、違法になります。
ですから「遺骨を引き取ってもそのあとの処理に困る」というのであれば、火葬をする段階で遺骨の引き取り拒否をしておいた方が、最も安全で費用も抑えることが出来るのです。
まとめ
どのような事情があるにしても、遺骨を引き取ったからには決められた方法で遺骨を処理または保管しなければいけません。
ですから遺骨の処理について悩むのであれば、決断するのは火葬前です。
火葬場を利用する前に申請手続きをしておけば、遺骨の引き取りを拒否することが出来ます。
気になる場合は葬儀を依頼する葬儀社に相談することです。